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2020年12月31日 (木)

Science 歯周病とアルツハイマー病 ~関連性とエビデンス~ ①

松下健二(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター・口腔疾患研究部長)さんの小論文を載せる コピーペー:

1. はじめに

 認知症は世界で最も患者数の多い神経疾患であり、WHOにより世界的な公衆衛生対策上の優先課題とされている。認知症の予防・治療法は様々な視点から研究がなされているが、有効な予防治療法は確立されていない。しかし、認知症の危険因子や、発症・進行を抑制する因子を特定しその情報を有効に活用できれば、認知症の予防や健康寿命の延伸が可能になるかもしれない。近年、歯周病や歯周病菌と認知症との関連が注目されている。

 本稿では、認知症の中で最も多くの症例を占めるアルツハイマー病(Alzheimer's Disease:AD)と歯周病や歯周病菌との関連性について解説。

2. 認知症の現状とアルツハイマー病

 「世界アルツハイマー病レポート 2015」によると、世界で約5000万人が認知症に苦しんでいると推定されている。また、その治療費は年間8000億ドルを超えている。高齢化の進展に伴い、2050年までに治療費は現在の3倍以上になると予想されている。平成29年度版高齢者白書によると、日本における認知症患者の数は2012年で約460万人、高齢者人口(65歳以上の人口)の15%。それが2025年には700万人を超えて、5人に1人(20%)が認知症になると推計されている。さらに、認知症の一歩手前の軽度認知障害(MCI)も合わせると1300万人にのぼると試算されており、日本の人口の9人に1人、高齢者人口の3人に1人が認知症になる時代がもうすぐ到来する。

 認知症とは、認知機能の障害により社会生活が困難になる病気の総称だ。日本においてその約7割が AD であるが、他にも脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがある。ADは、記憶、言語、および他の認知能力の緩慢かつ漸進的な低下を伴う神経細胞の喪失を特徴とし、最終的には死に至る疾患だ。

 現在、ADの薬物療法としては、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)や NMDA 受容体拮抗薬(メマンチン)が用いられている。しかし、これらの薬剤の効果には限界があり、薬物治療で一時的に改善が見られたとしても、数年後には服用開始時の状態に戻り、悪化の方向へと進んでいる。

 AD病変の主な特徴は、脳内のアミロイドβ(Aβ)プラークと神経原線維変化(NFTs)の形成である。Aβプラーク(老人斑)は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の代謝副産物である40個または42個のアミノ酸を持つAβ(Aβ 40とAβ 42)が主成分の細胞外沈着物である。NFTsは、主に高度にリン酸化したタウタンパク質がらせん状フィラメントを形成し、それが集合したものと観察される。

 脳内に蓄積するアミロイドプラークや NFTs はミクログリアを活性化し神経炎症を惹起するとともに、神経細胞を障害することで AD 病態形成に関わると考えられている。そこで、これらの分子は AD の重要な治療標的とされているが、抗アミロイドβ薬の効果を検証した多くの臨床試験では、ほとんどの症例で十分な有効性と安全性が確認されていない。

 

 

 

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