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2020年12月 6日 (日)

現代の危機に~経済論争の復権~ ③

続き:

経済学教育の多様性いかに失われたか<2>

 

日経記者 旧ソ連の崩壊後、マルクス経済学は下火になりました。

渡辺 ある時点で、東大の経済学部はマルクス経済学を専攻する専任教員は新規に採用しないという意識決定をしました。

 

 東大経済学部でこの30年ほど、マルクス経済学の理論分野の新しい准教授・教授の採用が為されていないこと、そして結果的に、現在東大経済学部にはマルクス経済学の講義を担当できる専任教員が一人もいなくなり、外部の非常勤講師に依存している状態が続いていることは、経済学界では周知の話であり、問題視されていた。しかし、このインタビュー記事で東大経済学部長がいう「意思決定」とは、特定の研究方法に基づく研究者を、研究能力の如何にかかわらず組織的に排除する措置を東京大学として正式に行なった旨を意味する。マルクス経済学の専任教員の不在が長らく放置されている事態も、この組織的排除の「意思決定」ゆえであることを、当該記事はその意を含んでいる。

 東京大学では、戦前から戦時中にかけてマルクス経済学にもとづく研究者が組織的に排除されていたという歴史がある。その反省を踏まえ、「東京大学憲章」の前文には「第二次世界大戦後の1940年、日本国憲法の下での教育改革に際し、それまでの歴史から学び、負の遺産を清算して平和的、民主的な国家社会の形成に寄与する新制大学として再出発を期し」とある。日経インタビュー記事にある「意思決定」は、もしそれが正規の機関決定であるならば、この憲章との整合性が問われる。とりわけ、

   19条(基本的人権の尊重の尊重) 東京大学は、基本的人権を尊重し、国籍、信条、性別、障害、門地等の事由による不当な差別と抑圧を排除するとともに、すべての構成員がその個性と能力を十全に発揮しうるよう、公正な教育・研究・労働環境の整備を図る。

この条文が否定する「思想信条による差別」に相当する決定を、大学部局が正式に行なったことを意味しよう。

 マルクス経済学を中核とするポリティカル・エコノミーの日本における総合学会である経済理論学会では、この日経記事問題を看過できない重大な事態と見なし、2019/12/19、付で河村哲二・経済理論学会幹事会代表幹事名でもって、五神真・東京大学総長宛に公開質問状を送り、日経インタビュー記事で報道された「意思決定」の経緯と理由と、東大憲章との整合性に関する見解を問うた。それに対して、2019/12/27、付で東京大学名での回答があり、事実関係として日経インタビュー記事で報道されたような「意思決定」がなされた事実がない旨、公式に確認された。

 しかし、その 2ヵ月後の時点でも『NIKKEI STYLE』において、事実に反する渡辺東大経済学部長の発言は、訂正されることなく、公開され続けていた。経済理論学会は2020/02/26、付で河村哲二代表幹事名でもって、改めて渡辺東大経済学部長宛の公開質問状を送り、発言の撤回と、日本経済新聞社に対する訂正記事の掲載を求めるよう要望した。対して、2020/04/08、付で渡辺東大経済学部長より、改めて記事で報道された「意思決定」は無かったこと、また、そもそも日経インタビューにおいて渡辺氏が上記のような発言をした事実もない旨の返答がなされた。また、当該記事の担当記者(前田裕之編集委員)に対して2019年12月にインタビュー記事の内容が渡辺氏本人の発言と異なる旨の申し入れを行っている旨も、返答された。これを踏まえ、2020/06/01、付で、河村哲二代表幹事名での公開質問状が岡田直敏・日本経済新聞社代表取締役社長宛に送られ、対して日経の小野経済解説部長より2020/06/09、付で、渡辺東大経済学部長の要請に基づき当該記事部分の削除をした旨が返答された。

 このように、経済理論学会による厳しい抗議と説明要請によって、当該「意思決定」が事実として存在しないことが東大によって公式に認知され、日経における当該誤報記事もようやく撤回 された。

 しかしながら、東大経済学部におけるマルクス経済学の理論分野の専任教員の不在状態は依然として続いており、同様の事態は他の主要国立大・私立大においても生じている。 

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