« 犬笛政治の果てに ① | トップページ | 犬笛政治の果てに ③ »

2021年1月23日 (土)

犬笛政治の果てに ②

続き:

カラーブラインドというレイシズム

 トランプの政治手法、そして1960年代以降のアメリカ政治文化を理解する上で重要な概念として、「カラーブラインド主義(color-blindness)」と「犬笛政治(dog-whistlepolitics)」がある。この二つは民主党、特にクリントン政権も利用したが、より一貫して徹底的に利用してきたのは共和党だった。半世紀にわたる共和党の犬笛政治がトランプを生み出し、そして彼は犬笛政治を新次元へと拡大したのだ。

 1964年公民権法や1965年投票権法などの公民権改革は、人種や性別のみに基づく雇用や教育や住宅などの差別を禁止した。当初は改革に暴力で抵抗する白人も多く、特に 19c. 末以来、公共空間の人種隔離法(通称 ジムクロウ法)が維持されてきた南部では抵抗も苛烈だった。だが人種差別否定の論理は徐々にアメリカ社会に定着し、公的な場所での露骨な差別語や白人至上主義はタブー化した。

 しかし公民権改革は、より広範な差別是正を目指すものだった。形式的に人種・ジェンダー中立的な制度や慣行が、現実には人種やジェンダーの不平等を生む場合、それも是正すべき差別とみなした。従来の慣行では雇用や大学進学における非白人や女性の機会平等が保障されていないためアファーマティブアクションが導入され、雇用や進学の機会を積極的に人種マイノリティや女性に提供し、実質的な機会平等等が追求された。明示的レイシズムによる排除・搾取・収奪・破壊の歴史による累積的な人種間の機会不平等構造は、人種を考えた公権力の介入なしには解消できないからだ。

 これに対し、公民権改革がもつ社会変革の可能性を極限まで抑えたい保守派が掲げたのが、政策や制度の設計はいかなる意味であれ人種を考慮すべきではないと主張するカラーブラインド主義であった。この考えによれば、形式上人種中立的な言葉で設計された制度であれば人種マイノリティに不利に働いてもそれはレイシズムではなく、むしろ人種に基づいて設計された不平等の積極的是正を目指す政策こそ差別だとされる。白人に偏って恩恵を与える構造の再生産(制度的人種主義)を防衛する論理だ。

 レイシズムの定義は、個人あるいは団体による、人種に明示的に言及された待遇の相違や悪意へと狭められる。社会学者 E・ボニラ=シルヴァは、こうした論理を「カラーブラインド・レイシズム」と呼んでいる (Eduardo Bonilla-Silva,Racism without Racists, 4th edition, 2014) 。

 犬笛政治はカラーブラインド主義を前提にした政治技法である。人間には聞こえないが犬には聴取できる音を出す犬笛のように、直接人種に言及する言葉を使用せずに人種的な意味を帯びたメッセージを発し、人種意識に駆り立てられた投票行動を促す戦術を意味する (Ian Haney Lo'pez, Dog Whistle Politics, 2014)。共和党は 1960 年代以降、ほぼ一貫して犬笛政治を通じて白人有権者の支持を求める「白い」党になり、トランプ大統領はその延長線上に登場したのだ。

« 犬笛政治の果てに ① | トップページ | 犬笛政治の果てに ③ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事