Science 歯周病とアルツハイマー病 ~関連性とエビデンス~ ③
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4. 歯周病、歯周病菌とアルツハイマー病
所有菌数や歯周病の有無と認知機能やADとの相関関係が多数報告されている。無歯顎の人や歯の数が少ない人は認知症の有病率や発症率が高いことが報告されている。また、信頼性が高い42報の論文のメタ解析の結果、認知症と歯周病の様々な臨床パラメータ(歯周ポケットの深さ:PPD、プロービング時の出血:BOP、歯肉出血指数:GBI、臨床的アタッチメントレベル:CAL、プラーク指数:PI)との間に有意な相関関係があることが示された。50歳以上の歯周病患者と50歳以上の健康なボランティアを10年間追跡調査した結果、歯周病患者は健康な人に比べてAD発症リスクが1.7倍高いことが示された。
また、歯周病患者は、健康な人に比べて認知機能の低下が早いことが報告されている。歯周炎患者では、IL-1β、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインが末梢血中に 上昇しており、これらの炎症性メディエーターがADにおける脳の炎症を悪化させる可能性が考えられる。
AD患者の剖検脳からいくつかの微生物が検出されたことが報告されている。単純ヘルペスウイルス、クラミジア、スピロヘータ、真菌などが剖検脳から検出されることが報告されており、これらの微生物は脳の炎症を惹起し、シナプス機能障害や神経細胞死を引き起こす可能性が考えられている。Aβには抗菌活性があることが分かっており、Aβは脳内に侵入した微生物を封じ込め、脳を保護するために神経細胞から多量に分泌されるのではないかとも考えられている。
すなわち、Aβは脳内感染を阻止する自然免疫分子として機能している可能性がある。一方で、Aβを含む微生物が脳組織に沈着して老人斑が形成されることで神経が損傷され、ADの病態を悪化させることも考えられる。
近年、歯周病菌である Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Aggregatibbacer actinomycetemcomitans、Fusobacterium nucleatum、Tannerella forsythia、Eikenella corrodens などの歯周病菌が、ADのような遠隔臓器の炎症性疾患の発症関与することが示唆されている。特にP.gingivalis とADとの関連が注目されており、同菌はADで死亡した患者の剖検脳組織から高頻度に検出されるが、正常なヒトの脳組織からは検出されなかったと報告されている。
また最近、同細菌が産生するプロテアーゼであるgingipainがAD患者の脳内で高頻度に検出さてたと報告されている。このプロテアーゼがADの病態形成に関与している可能性がマウスモデルで示されている。
我々は、加齢によりADを発症する遺伝子改変マウス(APP-Tgマウス)の口腔内にP.gingivalisを投与して実験的に歯周炎を発症させた後、P.gingivalis投与群と非投与群の認知機能を評価した。その結果、P.gingivalis投与群の認知機能は、非投与群に比べて有意に低下していた。
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