« キャシュレス社会のワナ ③ | トップページ | キャシュレス社会のワナ ⑤ »

2021年1月13日 (水)

キャシュレス社会のワナ ④

続き:

   「事業者が貸すはずはない」という幻想

 小委員会の議論で目立ったのは、新技術への過剰とも言える信頼と、これまでの消費者保護の取り組みを否定するような考え方だ。とりわけ2019/11/12、の委員会は象徴的だった。

 今回の法改正を巡っては、事務局では当初、指定信用情報機関の信用情報の使用義務を一律に課している現状なども見直すことになっていた。しかし、消費者団体等からは注文がついたことで、今回の改正では見送られてしまった。これに一部の委員が猛反対したのだが、この時の発言内容は、規制緩和を求める側の考え方がよく表れていた。

 先ずは、京都大学公共政策大学院の岩下直行教授。「今や世界はビッグデータの時代。役所が、この個人の債務は過剰であるから止めるべきであるという指針を示し、それを業者に対して促すことを法律で決めているというのは大変アナグロであり、近代的な規制のあり方としておかしい」と述べた上で、こう続けた。

 「多重債務を防止するべきだという掛け声のもとに、日本人を、特に若者を含めてですけれども、できる限り借入を行なわせないようにしようというような形の政策的なプレッシャーがかけられてきたというように私は理解しておりまして、それはある意味で多重債務を作り出さないという幸せな面があった反面で、多分日本の個人指標を落ち込ませたでしょうし、あるいは若い時点でより多くの消費を行ない、かつ将来支払うというような個人の自由な判断を許してこなかったという実績があるだろう」

 「山下・柘・二村法律事務所」(東京都港区)の二村浩一弁護士は、多重債務問題は放置できないとの意見が出ると、こう反論した。「もとより事業者として貸し倒れになるようなことを欲するわけがないんですよ。それを法律で縛らなければ事業者は野放図にやるという前提を置くこと自体が倒錯した議論なのです。消費者保護とおっしゃる方々は、そのような倒錯した前提に立って、その上で、そうしなければ保護できないという論を展開されるので、賛同しがたい」。そして、こう言い切った。

 「見込み額調査のような一方法に限りなさいというのは、害悪であっても利点はないです。もっと害悪というところで申し上げると、平成18年の貸金業法改正前に、貸金業者、ビヘイビアは問題ありましたが、審査ロジックはその時点ではおそらく世界ナンバーワンの審査ロジックをもっていた。平成18年改正によって返済能力調査を法定したがゆえに、そのロジックにブレーキがかかってしまった。せっかく持っていたものを潰した」

 「事業者が貸し倒れになるようなことをするはずがない」という議論は、いわば事業者の「性善説」に立つわけだが、これは「20年前にサラ金が言っていた議論と変わらない」と、委員会の委員だった池本誠司弁護士は言う。「貸し倒れリスクをどう吸収するかという時に、結局は、貸し倒れリスクより金利を高めに設定するか、あるいは少し強引に取り立てて、他社で借りてこさせればいい。そうやって事業者が個別に、自分のところの収益と貸し倒れを判断してやった結果、融資競争になった。その歯止めとしてできたのが信用情報機関で、全情報を登録して、それを確認した上で与信判断するということだった。それは、フィンテックで新しい情報が入っても変わらないはずだ」

« キャシュレス社会のワナ ③ | トップページ | キャシュレス社会のワナ ⑤ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事