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2021年1月31日 (日)

人間と科学 第320回 今と似ていない時代(4)―③

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 しかも当時のヨーロッパである。1914年にはオーストリアがセルビアに宣戦布告し、世界は大戦の渦に巻き込まれてゆく。ミランコビッチ自身も開戦直後にオーストラリア軍の捕虜となり、収容所に送られるという経験をしている。

 当時セルビアは独立国だったが、国境に近いミランコビッチの生家はオーストリア=ハンガリー帝国の領土になっていた。ミランコビッチは、新婚旅行で自分の生家を訪れているときに開戦に遭遇、そこで敵国の市民としてオーストリア軍に拘束されたのである。そのときの心境を推し量ることは容易ではないが、ミランコビッチが戦後に書いた自伝には次のような記述がある。

 

 「鉄の重い扉が、私の背後で閉ざされた。私はベッドに腰を下ろし、周囲を見回して、自分が置かれたこの新しい状況について考えはじめた。持参したカバンの中には、私が取り組んでいる天文学の問題に関する書きかけの原稿や、すでに印刷された論文、それからただの白紙が入っていた。私は原稿にざっと目を通し、愛用のペンを手に取ると、すぐに計算と執筆にとりかかった。

 真夜中を過ぎた頃、私は改めて周囲の様子に目を向けた。自分がどこにいるのか、思い出すまでに少し時間が必要だった。その小さな部屋は、宇宙を旅する者がつかの間の休息を取るのに使う、一晩だけの宿であるように感じられた」

 

 妻の尽力とオーストリア人の理解者の支援があったことで、ミランコビッチはほどなく収容所から出ることができた。その後、ハンガリーの首都ブダペストの大学に身柄を移され、監視下に置かれながら研究を継続する自由を保証された。ミランコビッチは終戦までの 4年間をブタペストで過ごし、それまでと同じように精力的に研究を進めた。

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