« 犬笛政治の果てに ⑦ | トップページ | 人間と科学 第320回 今と似ていない時代(4)―② »

2021年1月29日 (金)

人間と科学 第320回 今と似ていない時代(4)―①

中川 毅(立命館大学古気候学研究センター長)さんの連載文である。 コピーペー:

 

   セルビア の英雄 (その 1)

 氷期と間氷期は、およそ10万年おきに繰り返す。そのリズムを作り出しているのは、地球の公転軌道が真円に近づいたり長細くなったりする、天文学的なメカニズムだった。地球にはこの他にも、地軸が倒れたり起き上がったりする4.1万年周期や、同じく地軸の指す向きが天球に対して「倒れかけのコマ」のように回転する2.3万年周期などがあり、そのすべてが気候変動に強く影響していた。アメリカのヘイズとインブリー、そしてイギリスのシャックルトンという三人の地質学者が、1976年に深海の泥の分析からこれらの事実をつきとめた。これにより、それまで無縁だと思われていた古気候学と天文学は不可分に結びつき、自然界に対する人間の理解も、以前とはまったく違う新しいものに書き換えられた。

 驚くべきことに、この「発見」を、それより何十年も前に予言していた研究者がいた。1879年生まれのセルビア人数学者、ミルーティン・ミランコビッチである。若い頃は土木工学を専攻し、橋梁の構造設計などに能力を発揮した。だが30歳の時に、異例の若さでベオグラード大学の応用数学の教授になると、もっとスケールの大きな研究テーマはないかと模索するようになった。そのとき彼の興味をとらえたのが、19c.に人々の世界観を根底から揺さぶった新発見、過去に確かに存在した「今と似ていない時代」、いわゆる氷河期の問題だった。

 氷河期がなぜ起こったのかを説明する試みには、宗教的なものから科学的なものまで多くの説があった。その中で当時から異端視されていたのが、スコットランドの在野の研究者ジェームズ・クロールが提案した、地球と太陽の位置関係に関するものだった。クロールは、氷期とは本質的には「氷が異常に育つ時代」のことであると考え、冬の太陽放射が弱くなる時代に注目して論理を組み立てていった。

« 犬笛政治の果てに ⑦ | トップページ | 人間と科学 第320回 今と似ていない時代(4)―② »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事