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2021年1月26日 (火)

犬笛政治の果てに ⑤

続き:

支配人種の民主主義にとっての「不正」

 トランプが 2020年選挙の投票日前後に繰り返した「不正投票」という言葉も、実際には非白人の選挙への参加の正当性を否定する犬笛となってきた。

 アメリカ歴史において長らく非白人は選挙政治から排除・疎外されてきた。19c.初頭に多くの州で選挙権の財産資格が撤廃されたが、新たな資格要件は白人男性であることだった。南部では 19c.末に人頭税と読み書きテストを投票資格要件とする州の法律が次々と導入された、多くの貧しい黒人有権者が事実上投票不可能になった。

 白人男性以外を排除・周縁化してきたアメリカ政治の特質を「支配人種民主主義(herrenvolk democracy)」と呼ぶこともある。

 1965年選挙権法は黒人有権者の投票権を保護する上で重要だったが、その後徐々に共和党から同法を弱体化させようとする動きが現れた。たとえばレーガンは、投票権法の期限切れに際して、同法の更新を阻止することを一時は試みた。また 2000年大統領選挙では、フロリダ州当局が共和党のジェブ・ブッシュ知事の下、多数の黒人有権者を投票者名簿から「誤って」削除した結果、同州でのジョージ・W・ブッシュ候補の僅差での勝利をもたらした。

 そのブッシュ政権下の司法省は、フロリダ州の疑惑を追及する代わりに、根拠が乏しい他州の「不正投票」の疑いを捜査し始めた。共和党が用いる「不正な投票」は、黒人の選挙政治への参加を意味する概念と化した。2008年にバラク・オバマが大統領に勝利すると、彼がアメリカ生まれではなく大統領職の資格要件を欠くという、証拠なき陰謀論を掲げる白人の「バーサー(birther)運動」ガ勃興した。共和党は同運動を婉曲的に支持したが、このトランプは最後まで「バーサー運動」に固執した人間であった。

 2010年代には、主に黒人有権者が多く非白人の投票が増加していた共和党政権の州が、「不正投票」防止と称して有権者 ID 法と呼ばれる法律を制定した。投票時にパスポートやその州発行の運転免許証など特定の身分証の携行を義務付ける法律で、こうした身分証を持たない者が多い黒人には特に不利となった。この流れは、投票権法の条項のうち過去に投票制限を行った州や郡の選挙制度変更に司法省の事前審査を義務付ける箇所を 2013年の最高裁判決が実質無効化するとさらに加速し、ゲリマンダリングや、黒人有権者が集中する郡の投票所の削減などの妨害も推進された(アリ・バーマン『投票権をわれらに』2020年)。

 主に高齢白人の有権者が郵便で投票していたため、有権者 ID 法では郵便投票は問題視されなかった。だが今年、コロナ禍で投票所の密集を忌避した有権者(民主党支持が多い)や投票所でのトランプ支持者からの嫌がらせを恐れた非白人有権者が郵便投票を使うと、トランプ政権は郵便投票が「不正」の温床だと主張し始めた。

 選挙「不正」とは、白人支配の政治に与しない有権者の言い換えだったのである。

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