Clinical 口腔癌の早期発見を目指して ~光学機器を用いた検出法~ ⑥
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5. 蛍光ロス断端部の病理組織学的検討
口腔粘膜蛍光観察装置の有用性検証するために、大西・中嶋らはT1およびT2 舌癌 20 サンプルにおいて蛍光ロス断端部を病理組織学的に検討した。
手術時に蛍光ロスの範囲を描出、計測し、その後切断範囲を決定した。切除後、術前に記入した蛍光ロスの断端を病理組織学的に検討した。結果は、蛍光ロスを示したすべての領域で上皮異形成を認めた。上皮異形成の割合としては軽度が 30.0%、中等度 55.0%、高度が 15.0%を示した。よって蛍光ロスの断端部の上皮異形成はそのほとんどが中等度以上であり、切除範囲の設定に有用であることが分かった。
実際の右側炎症性病変でも早期舌癌の手術時の写真を示してある図(略)の例。蛍光ロスのマージンを観察し、さらにヨード染色法と比較確認した後に、切除範囲の設定を行った。蛍光ロスの辺縁より 5~7mm 離した切除範囲を写真は示している。
6. 描出口腔粘膜蛍光観察装置の利点と今後の課題
これまで種々の粘膜病変における異形成や癌化の可視化に対して、光学技術を利用した機器が開発されている。その一つに NBI が有用であると報告されているが、NBI は腫瘍の可視化に有用であるが、非常に高くて巨大、歯科診療所では実用的ではない。一方、口腔粘膜蛍光観察装置は、日常臨床においてチェアサイドで短時間に行える装置で、患者に対する負担と侵襲が極めて軽微で、また比較的安価でコンパクトという利点がある。
上皮細胞の自家蛍光において毛細血管内のヘモグロビンは可視波長域のうち 415nm と510nm の光を強く吸収する特性があり、本システムから発する青色の蛍光で観察すると、粘膜表層の毛細血管が光を吸収する。そのため、血管新生や血管拡張が起こると蛍光発色の低下が生じる。このことからアフタ性口内炎のような炎症性病変でも蛍光ロスが起こることがあり、臨床所見も併せて診断すべきである。
正常口腔粘膜の観察において、部位により蛍光発色は様々である。舌縁部、口底、頬粘膜などの非角化粘膜では、病変のコントラストが明瞭となり容易に描出可能だが、舌背部、歯肉などの角化粘膜ではコントラストがやや不明瞭であった。これは角化粘膜における励起光の吸収・散乱の違いが原因であると考えられた。よって、これらの角化粘膜部位における、口腔粘膜蛍光観察装置による診断が今後の課題であると考えられた。しかし、ヨード染色法と比較すると、観察部位の適応については広くなり、有用であると思われる。
このように、口腔粘膜蛍光観察装置は口腔癌の早期発見および切除範囲の設定に推奨されているが、特に我々口腔外科医師にとっては手術時の切除範囲の設定に有用と考えている。Poh らは20例の口腔癌周囲から生検を行った 102 部位のうち、癌もしくは上皮異形成を示したのは 33 部位で、そのうち 32 部位で蛍光ロスを呈し、口腔癌の切除範囲の設定に有用であると報告している。
我々の症例においても、肉眼的に判断の難しい表在性の口腔癌に対して、病理組織学的に高度上皮異形成、上皮内癌や早期浸潤癌の進展範囲と蛍光ロスの領域とが一致する傾向にあり、肉眼的に病変の進展範囲の判別が困難な場合においても、口腔粘膜蛍光観察装置が有用であると考えられた。
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