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2021年2月 7日 (日)

ドナルド・トランプの危険な噓 ④

続き:

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 禁断の書と呼ばれる理由として、全く次元の異なるもうひとつ別の問題がある。それは、人物の精神科的な診断を示唆することは、その人物の言動の免罪符と化す可能性があることである。例えば先のN。職場からは多くの人が耐えきれず去っている。本当は彼の方に出ていってほしいというのが周囲の本音であろう。しかし彼が病気ということになると、風景は一転する。むしろ彼の特異な言動を理解し、いたわることが求められることになる。

 2020年大統領選の時点で、COVID-19によってすでに20万人のアメリカ人が死亡していた。バイデン氏が選挙運動で強調したことの一つがそれであった。選挙直前には、世界で最も権威ある医学雑誌の一つ、ニューイングランドジャーナルオブメディシンに、これも禁断かつ異例であるが、政権を厳しく糾弾する論文が掲載された。「リーダーシップの空洞の中での死」と題されたその論文は、アメリカには医学についての世界最高の叡智を有する専門家集団が存在するにもかかわらず、政権が彼らのアドバイスを無視したことをはじめとする失政が多数の死亡者を出した原因であると強い言葉で指弾している。その最高責任者がトランプ氏であることは言うまでもない。

 ほかにも彼には、セクハラ、名誉棄損、脱税など、数えきれない嫌疑がかけられているが、在任中の大統領特権によって訴追は免れている。2021/01/20、が過ぎ一市民に戻ったとき、大量の訴追を受けることは避けられまい。責任能力という概念は、真に重篤な精神障害者を守るためにも必要なものであるが、日本でもアメリカでもしばしば濫用されている。もしトランプ氏が罪を逃れる最後の手段として心神喪失を主張するようなことがあれば、責任能力というものへの誤解と偏見が高まるのではないかというのが精神科医としては気になるところである。このように、ある人物の精神状態に疑いがあるという示唆は、ゴールドウォーター・ルールをめぐる問題もあわせて、錯綜した様々な問題を発生させる。

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