Clinical COVID-19 : 口腔との関連と口腔健康管理の重要性 ②
続き:
1. SARS-CoV-2とCOVID-19
ウィルスの最も本質的な特徴は、細胞や細菌と異なり、自らの遺伝情報を自身で増やすことができず、生きた細胞に寄生して初めて増殖が可能なところにある。また、他の生物と異なり、ウィルスはDNAかRNAの一方しか持っていない。これまでにヒトに感染するコロナウィルスとして、229E、OC43、NL63、HKU-1の4種類のウィルスが日常的に感染し、風邪症候群の原因(全体の10~15%)となることが知られていた。これらに加え、2002~2003年にかけ中国で猛威を奮った重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原体 SARS-CoV-1と、2012年に中東や韓国等で流行した中東呼吸器症候群(MERS)の病原体MERS-CoVが加わった。
SARS-CoV-2はSARS-CoV-1と遺伝子レベルで約80%、コウモリCoVと約90%同じであることが発表され、このことから、国際ウィルス分類委員会は新型コロナウィルスの名称をSARS-CoV-2と決定、2020/02/11、にはWHOがSARS-CoV-2によって引き起こされる感染症の名称➡COVID-19と名前を付けるに至っている。
SARS-CoV-2は、1本鎖のRNAゲノムをカプシドとエンベロープと呼ばれる脂質二重膜が覆うだけの単純な構造をしている。ゲノム RNAは RNAウィルスとして最大の約30kb(3万塩基)で、インフルエンザウィルス(約10kb)の3倍もの巨大 RNA を有する。そのため、自身のゲノムを修復することができる修復酵素を併せ持つことからも、細菌よりはるかに小さいウィルスには改めて感心させられる。エンベロープに突き刺さる形で、スパイクタンパク質(Sタンパク質)が存在しており、標的細胞への吸着・染色において重要な役割を成す。エンベローブは、消毒薬に感受性を示すため、消毒薬によりウィルスは失活し感染性を失う。
SARS-CoV-2の感染力を示す基本再生産数(R0:1人の感染者が何人の人に感染させるか)は、当初は1.4~2,5程度であったが、最近では平均3.28と報告されており、インフルエンザウィルスより感染力が強いとされている。
SARS-CoV-2の細胞への感染は、細胞表面に発現するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)とSARS-CoV-2の Sタンパク質が結合することから開始する。その際、Sタンパク質は標的細胞の細胞膜に存在するセリンプロテアーゼである TMPRSS 2 (Transmembrane protease serine 2)などのプロテアーゼにより切断されることにより、膜融合が進行する。mataSARS-CoV-2のSタンパク質は、furin と呼ばれるヒト細胞由来のセリンプロテアーゼにより切断される配列も有するため、furin の酵素活性によって細胞との癒合が促進される可能性も指摘されている。
ウィルスの感染経路としては飛沫感染と接触感染が重要だ。SARS-CoV-2は段ボールの表面で最長24時間、銅表面で4時間、ステンレスやプラスチック表面で2~3日間生存。インフルエンザウィルス等よりも安定性があるため、こまめかつ念入りな手洗いが重要である。また、SARS-CoV-2はエアロゾル内に 3時間生存することが報告されているため、感染者と密閉空間にいることで、エアロゾル感染が起こる可能性がある。従って、エアロゾルの発生する治療頻度が高い歯科治療においてはエアロゾル感染に対する最大限の注意が必要である。
さらに重要なことに、SARS-CoV-2はSARS-CoV-1感染とは異なり、肺炎発症前の無症状の状態の感染者からの感染、いわゆる「潜伏期における感染」が起こることが、対応を困難にしている。無症状でも胸部画像診断で肺炎像を伴う感染者がいること、症状が出現する直前が最もウィルス量が多く、44%がこの段階で他人に感染させている可能性があることも分かってきた。したがって3密を避けることが重要である。
COVID-19の臨床症状は、約5日の潜伏期間の後に表れ、発熱、疲労、乾咳、筋肉痛、のどの痛みなどを伴う。炎症が肺全体に広がって血中酸素濃度が低下し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの重篤な呼吸障害が起こると死に至る場合がある。高齢者やCOPDなどの呼吸器疾患、糖尿病や循環器疾患等の基礎疾患を有する感染者は、重症化しやすいことや死亡率が高いことはよく知られている。また、ARDSを引き起こす要因としてサイトカインストームの関与が指摘されている。特に、IL-6等の炎症性サイトカインの上昇が死亡率と関連しており、過剰な炎症状態が予後不良に寄与すると考えられている。
COVID-19においては呼吸器病変以外にも血栓性合併症、心筋機能障害や不整脈、急性腎障害および胃腸障害などを伴う場合がある。わが国は、欧米諸国に比べるとCOVID-19による死亡者が少ない。その理由の一つとして、過去に季節性のコロナウィルスに感染していると COVID-19の重症化リスクが減るという報告がある。すなわち交差免疫を持つ人の割合が、わが国を含めアジア圏では多いことが指摘されている。
また、大規模な感染が続くヨーロッパでは、SARS-CoV-2のSタンパク質が変異し感染力の強いウィルスが大流行に寄与しているとの報告もあるが、交差免疫を含め詳細な解明が待たれる。
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