ドナルド・トランプの危険な噓 ⑤
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そうした問題を脇において、純粋に事実だけに目を向ければ、つまりトランプ氏が毛嫌いするポリティカル・コレクトネスを脇におけば、トランプ氏の病的なナルシシズムはあまりに明らかである。彼の言動は医学の教科書に掲載するサンプルに使えるまでに典型的で、悲しいまでに予測可能である。
2020年に落選確実となったとき、選挙に不正があったと彼が主張するのを見て、やっぱりと思った人は多かったであろう。勝てば圧勝しなかったのは不正があったからだと主張し、負ければやっぱり不正があったからだと主張する。バイデン氏の当選確実が伝えられたとき、何の根拠も示さずに選挙不正をまくしたてるトランプ氏の TV 放送は、内容が不適切と判断した TV 局によって中断された。敗北が確定的だったとはいえ、その時点で彼はまだ大統領である。その大統領の演説を、自国のメジャーな複数の TV 局が自分の判断で放送中断するなどあり得ない事態だが、散々フェイクと罵られてきたメディアの反撃の狼煙が上げられたということなのであろうか。
その後の彼は、次期政権への移行には全く非協力的で、アメリカに政治的空白を作り出していた。職場放棄にほかならない行動だ。COVID-19がパンデミックになり始めたときトランプ氏は「私は戦時下の大統領だ」誇らしげに宣言していた。戦時下に政権交代がスムースに行なわなければアメリカ国民にとって致命的ともいえる不利益になるのではないか。彼の掲げるアメリカ・ファーストは実はミー・ファーストであったことがここにあまりにわかりやすく露呈されている。
2020年の選挙でトランプ氏がアメリカ国民にノーを突きつけられたと総括するのは、半分は正しいが半分は正しくない。7000万人以上のアメリカ国民が彼に投票したのだから。前回と今回の選挙人獲得数と総得票数を見れば、選挙という法制度に基づけば勝利と敗北に截然と区別できても、統計学という経験科学に基づけば両者に有意差はなく、トランプ氏とバイデン氏に対するアメリカ国民の支持はほぼ拮抗しているのが正しい描写であろう。
あれほどの噓を繰り返す男がなぜここまで支持されるのか。前掲書でもいくつも論説されている。それらにはほぼ共通しているのは、トランプ氏のナルシシズムを、支持者たちも共有しているという分析である。高望みや憤りがナルシシズムの中に混合してくすぶっているとき、人は強烈なナルシストである暴君の中に理想像を見出す。ヒトラー・ユーゲントがヒトラーの中に強い父親像を見ることで、喜んで彼の権威的なリーダーシップに従ったという史実も紹介されている。COVID-19を怖がるなというトランプ氏のご託宣に操られる支持者はマスクをせずに大集会をしている。ウィルスに感染し発症したものの、短期間で退院しホワイトハウスのバルコニーでマスクを引きちぎって見せるトランプ氏に拍手喝采している。強いヒーローのご帰還というパフォーマンスに、あたかもショーに感動するように支持者は感動している。トランプ氏が最も重んじるのは自分がヒーローを演ずるショーである。
2016年の自らの勝利について彼は「テレビの歴史の中で最高の夜だった」と支持者たちに述べている。大統領への就任は、アメリカという国の歴史においての意味よりも、テレビの歴史においての意味の方が彼にとっては大きかったのだ。トランプ氏の関心はリアルワールドではなくショーなのである。そこではトランプ氏のみがヒーローで、彼の言葉は絶対に正しく、それに従って突き進めばアメリカは再生し偉大になる。
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