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2021年2月 5日 (金)

ドナルド・トランプの危険な噓 ②

続き:

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 誰だって自分が可愛い。それは生物としての健全な感覚である。だが過剰なナルシシズムは問題だと感じるのもまた健全な感覚で、精神医学ではそれを病的なものと定めている。実例を示そう。職場の上司の言動に苦悩する部下からの精神科医への相談だ。

 

 私の上司Nは、常に注目や賞賛を欲しており、少しでも注目されていないと感じると、とにかく褒めてもらうまでつきまといます。仕事上で意見が異なったときには、「自分は優秀な人間だから正しいことしか言わない。お前は劣っていて間違っている。謝れ。すべて俺が正しかったと言え」など、議論と歓喜の無い自分の優秀さのアピールを続けるので、相手が呆れて黙ってしまうと、「ほら、俺が正しいから黙ったんだろ!」と勝ち誇っています。

 そんな上司ですが、第一印象はとてもよく、一見するといつも自信満々で仕事に取り組んでいるように見えます。けれどもそれが見せかけにすぎないことは近くで見ていればすぐにわかります。「地道な努力ができない」「他人の成果を奪い取り、自分の業績としてアピールする」というのが彼のいつものパターンで、いま現在は一般的にいう地位の高い職についていますが、そのポジションは、たとえば職場内外の選考等で彼が落ちた際に「自分が落ちるわけないだろ、審査をやり直せ」と担当部署に怒鳴りこむなどして勝ち取ったことは職場ではみんな知っています。

 そして、周囲が彼をたてているときは上機嫌ですが、少しでも異を唱えられたりすると感情的に激しく抵抗し、時には職場放棄も平気で行います。自分を批判したり誤りを指摘したりした人間、たとえば上席の一人を、自分を含むスタッフ全員にパワハラを行なっていると訴え出たこともあります。それは明らかに根も葉もない中傷なのですが、彼の話ぶりをみると、どうも事実であると信じ込んでいるような病的な感じさえ受けます。そうでないとしても、「自分が正しいことを行なおうとしているのを、上席が理解できずに止める以上、こうするしかない」とむしろ正義感に燃え、誹謗中傷を用いることも自分の場合は正当化されると考えているようです。

 第一印象とは異なり、実は仕事が全くと言っていいほどできないのですが、何か失敗したときにその原因を反省し改善するということは決してしません。それは自分が間違っていたことを認めることになり、彼には耐えがたいことのようなのです。

 しかし周囲は当然にそんな彼に耐え難く、これまで何人もが職場を去っています。私も我慢の限界に達し見切りをつけようと思っているのですが、あるいは彼は何かの病気で、精神科での治療を勧めた方がいいのでしょうか。

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   誰でもある程度は持っているナルシシズムも、度を超えれば病的だ。精神医学の公式の診断にも自己愛性(ナルシシスティック)パーソナリティ障害というものが存在する。上司N氏も、そしてトランプ氏もその診断基準に適合する特徴を持っている。

 診断基準にはたとえば「自己の重要性に関する誇大的な感覚を持っている」「尊大で傲慢な行動や態度」という項目がある。トランプ氏に適合することは説明の要もないと思われるが、顕著な例を一つだけ挙げるとすれば、彼はあるときインタビューに答えて「私のとても優秀な頭脳から、私はたくさんのアドバイスをもらってきました。私の第一のコンサルタントは私自身です」と語っている。「特権意識:特別有利な取り計らい、または自分の期待に人が自動的に従うことを理由なく期待する」という項目も診断基準の一つであるが、2016年の大統領選のキャンペーン中に、「私が五番街の真ん中で人を撃っても、私の支持者が減ったりはしない」と豪語したのはあまりにもあからさまな特権意識の表現と言えるであろう。同じころ彼は、身体に障害を持つ記者を指して「みじめな奴だ。見てみろよ」と嘲笑するのみならず、障害によるぎこちない動作を大観衆の前で真似てみせたのは、「共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない」を絵に描いたようなエピソードであった。さらに「限りない成功、権力、才能などの空想に陶酔している」「過剰な称賛を求める」という診断基準の項目も、トランプ氏の描写そのものである。

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