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2021年2月17日 (水)

Clinical COVID-19 : 口腔の関連と口腔健康管理の重要性 ⑧

続き:

5. ウィルス感染症に対抗する口腔健康管理 ~呼吸器疾患の予防~

 COVID-19により入院期間が長くなるほど、また、SARS-CoV-2の蔓延が長引くほど、専門的なケアを受ける機会が減るため、仮に軽症で入院したとしても、これまでの機序により口腔細菌の誤嚥に起因する呼吸器の炎症が場合が増えると考えられる。

 一方で、歯科医師や歯科衛生士が患者に施す口腔健康管理が、肺炎による死亡率を抑制したり、インフルエンザの罹患を予防することから、医科歯科連携に代表される多職種連携が進んでいる。口腔ケアによりICU患者の人工呼吸器関連肺炎の発生率を大幅に減らせることも報告されている。また、歯周病治療により、COPDや糖尿病などの病状が改善したとの報告も多数ある。

 口腔衛生状態の管理は、ACE2発現や炎症性サイトカイン産生の上昇を防ぐことにつながる可能性がある。さらに、口腔衛生状態の管理により、誤嚥性肺炎や COPD等の慢性肺疾患の発症と増悪を予防することは、COVID-19に対する感受性の低い身体作りにつながる可能性があり、たとえSARS^CoV-2に感染したとしても、重症化の防止につながるかもしれない。

 COVID-19をより理解する上で、口腔マイクロバイオームとCOVID-19との関連研究、および口腔衛生状態とCOVID-19重要度との関連を検討する臨床研究・基礎研究は今後の重要な課題である。

6. 期待される COVID-19における口腔サイエンス

 これまでの口腔における感染症研究は、ウィルス操作の技術および専門施設の必要性から、細菌に関する研究がほとんどであり、口腔とSARS-CoV-2/COVID-19に関する研究は限定的である。しかし、これまで述べてきたように、感染リスクや感染様式の解明のため、そして感染者の早期発見のためにも、唾液を含む口腔と SARS-CoV-2に関する研究は大変重要である。特に、歯科界発の研究成果は、学術的のみならず社会貢献の観点からも重要だ。

 口腔と COVID-19との関連研究から、口腔の新たな一面が見出される可能性も高い。口腔における SARS-CoV-2 の感染機構、唾液中 SARS-CoV-2の由来、SARS-CoV-2 と口腔細菌との関連など、今後の研究進展が期待される。

 さらに、ウィルス学的視点から口腔が注目される今、口腔細菌の口腔に限局した影響のみでなく、「口腔細菌―ウィルス―宿主の相互作用」という新たな視点からの研究が、口腔疾患の病因の解明と、口腔疾患が影響を及ぼす全身疾患に対する理解のみならず、新しい治療法と予防法の開発、ならびに歯科医療と歯学研究分野の拡大につながる可能性がある。

おわりに

 わが国の政策の基本方針➡「骨太の方針2020」においても「細菌性やウィルス性疾患の予防という観点も含め、口腔の健康と全身の健康の関連性を更に検証」と明記されるなど、口腔とウィルス感染症との関係が注目されている。歯科医療従事者には、口腔疾患を診ることのみならず、口腔から感染症を含む全身を診ること、および全身の情報を基に歯科医療と患者支援を行うことが求められている。

 COVID-19の蔓延による”歯科受診控え”により口腔環境が悪化しているケースも多い中、問診や口腔所見からウィルス感染症を早期に発見したり、口腔ケアや摂食嚥下指導等を実施し、口腔衛生状態と口腔機能を管理することにより、感染者の全身の健康維持に貢献することができる。上述した機序を介して、歯周病原菌をはじめとする口腔細菌がCOVID-19の進展に何らかの影響を及ぼしていることが十分に推察される。また、歯周病により歯周組織が易出血性となっている場合には、ウィルスが容易に体内に侵入することは想像に難くない。さらに、歯周病原菌やその病原因子、例えば内毒素などが血管に入り込む菌血症が、SARS-CoV-2感染と相まってCOVID-19を重症化させる可能性も考えられる。COVID-19に対する有効な抗ウィルス薬がない現状、また、仮に特効薬やワクチンが上市されたとしても、ウィルスは変異が早いため無効となってしまう可能性があることから、口腔健康管理は、マスクの装着、手洗いや手指の消毒などと同様、COVID-19対策の基本と考えても過言ではない。このことは、周術期における口腔健康管理が肺炎などの術後合併症を予防する事実からも明らかである。また、口腔健康管理の推進が逼迫するわが国の救急医療の緩和や医療費の削減にもつながる可能性は大きい。

 コロナウィルスはヒト以外の動物にも感染するため、人類がヒトからウィルスを排除したとしても、野生動物の中で生き延びたウィルスが変異し、再びヒトに感染する可能性がある。そのため新たなコロナウィルス禍が発生する可能性が高い。社会のグローバル化の進捗に伴って、世界各国から様々な病原体がわが国に持ち込まれる可能性もある。また、高齢者は重症化しやすいため、高齢化の進むわが国では感染症対策は、更に重要となるであろう。

 歯科の 2大疾患、歯周病とう蝕が感染症であることは言うまでもないが、歯科医療従事者には、”口腔微生物が誘因となる炎症は全身に広がる”という認識と口腔のみならず全身の健康維持のため、また感染予防の観点からも、”ウィルス・細菌感染症対策の最前線に立っている”という気概を持つことが、改めて求められている。

筆者(今井、小林)は、2020年11月末時点での情報に基づいて記載した。新しい研究成果の発表等により内容がアップデートされる可能性がある。

 

 

 

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