« Report 2021 フレイル健診 ③ | トップページ | ドナルド・トランプの危険な噓 ② »

2021年2月 4日 (木)

ドナルド・トランプの危険な噓 ①

村松太郎(精神科医・慶応義塾大学医学部精神神経科准教授)さんは「世界 1」に小論を載せています コピーペー:

   1

 COVID-19は、ある日、奇跡のように消える。

 パンデミックの初期に、ドナルド・トランプ大統領(当時)はこう言った。

 この言葉には根拠がない。したがって噓である。

 しかし希望がある。したがって受ける。

 あなたの病気は必ず治ります。医者のこういう言葉に似ている。それが治らない病気であるとき、この言葉は噓である。あなたの病気は治りません。誰もそんな言葉は聞きたくない。そんな医者にかかっても意味がない。人は、治ると言ってくれる別の医者にかかるだろう。

 医者の噓には二種類ある。患者のための噓と自分のための噓である。集客目的で根拠なく治るという希望を患者に与えるのは自分のための噓である。絶望から救い、現実に向き合わせる力を与えるのは患者のための噓である。自分のための噓と相手のための嘘。嘘はこの二種類から成る。

 トランプ氏の嘘は自分のための噓である。

   2

 嘘、特に政治家の噓はわかりにくいものだが、トランプ氏の噓はとてもわかりやすい。中でも最もわかりやすいのは、実際より大きな数字を示して自分の偉大さを誇る噓である。トランプ氏は 2017 年の大統領就任式の出席者がアメリカの史上最多であると主張した(実際にはオバマ氏のそれよりはるかに少数である)。彼の政権がこうして始まったのは実に象徴的であった。それが検証すればすぐにわかる噓であることだけではない。これから新たな政権の仕事を始めようとするとき、就任式の出席者数こそが、噓をついてまで強調するほどにトランプ氏にとっては重要なことだったのである。

 同じパターンの噓は何回も繰り返されている。中には雑誌TIMEの表紙に自分は歴史上の誰よりも多く登場したよいう子どもの自慢話のような噓もある(彼は自分の登場回数が14、5回だと自慢したが実際は11回であるし、ニクソン大統領は55回登場している)。

 数字を誇張して自分の主張の正当性や計画の価値を大きく見せるのもトランプ氏の常套手段である。アメリカは世界中にほぼすべての国に対して貿易赤字だと彼は演説したが、その時点で黒字の国がオーストラリアやオランダなど、10ヵ国以上あった。カナダに対しては170億ドルの赤字だと言ったが、実際は81億ドル黒字だ。アメリカ国民は世界一高い税金を払ってきたと言ったが実際はアメリカの税金はOECD諸国の中でかなり安い方に位置している。これらの噓は、自らの政策を正当化すると同時に、前任者の仕事を貶めるものであるが、逆に前任者の功績を自分のものとすることもしばしばある。

 自分が大統領に就任する前に達成されたことを、あたかも自分の仕事であるかのように述べるのである。さらに前任者すなわちオバマ氏への露骨な中傷もあった。オバマ氏がトランプタワーを盗聴したとか、出身地はアメリカでないなど、まったく根も葉もない中傷である。

 誇張は数字だけではない。メキシコは世界で最も危険な国であると断じ(これもまた国際犯罪統計に照らせば噓であるが)、建設した国境の壁は、メキシコからのドラッグなどを阻止する素晴らしい業績であると自画自賛したが、実際はトンネルやドローンが使われているから、巨大な壁は見かけほどの効果はない。映像で見れば頼もしく目に映るだけにすぎない。

 本質とは無関係な数字で効果を主張するという噓もある。PCR検査の件数を示して、アメリカのCOVID-19対策が優れていると主張した。検査件数の多いのは事実であっても、重要なのはそんなことより死亡者数が膨大なことであることは誰にでもわかる。そんな当然の指摘に対してはあからさまに不機嫌になり、質問した記者を罵倒した。

 逆に自分の偉大さを損なう数字は認めようとせず、間違いであるとか不正であるなどと主張する。2016年、ヒラリー・クリントン氏と戦った大統領選は大接戦であったが、不正な票があったとか選挙へのハッキングがあった、そういうことがなければ自分の圧勝だったと主張していた。

 こうして挙げていくと紙幅が尽きてしまうほど、トランプ氏の噓は膨大である。しかもそれらが噓もあることは多くの信頼できるメディアによって検証されている。だがそんな検証にも彼は動じず、あれはジョークだと開き直ったり、そんなことを自分は言っていないとさらに噓を重ねる。そして指摘したメディアをフェイク・メディアであると非難する。

 トランプ氏の噓はどれも、直接間接に自分の偉大さを主張する噓である。これはナルシストの典型的な噓の特徴に一致している。

« Report 2021 フレイル健診 ③ | トップページ | ドナルド・トランプの危険な噓 ② »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事