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2021年3月15日 (月)

生物多様性とは何か、なぜ重要? ③

続き:

生物多様性の階層性と生態学的意義

 このように地球上に様々な生態系が存在し、機能しているが、それぞれの生態系を構成し、その機能を維持しているのは多様な生物種だ。生態系における生物種の数の大小を「種の多様性」という。

 生態系において生物種の数が大きくなる、すなわち種多様性が高くなればなるほど、その食物網ネットワークは複雑になり、エネルギーや物質のフロー・ルートが多岐にわたって、環境変動や人為攪乱によって生物種の一部が「欠員」した場合でも、系全体の機能は大きく損なわれずに維持され、やがて「欠員」した生態系ポジションに新たな種が進化して組み込まれ、元の状態に復帰するという具合に系の柔軟性と抵抗力が高まるとされる。

 さらに、それぞれの生物種集団(同じ種に属する個体の集まり=個体群)にとって集団内にさまざまな遺伝子型の個体が在るほうが、環境変動に対して多様な反応を示すことができるので、集団の生存確率は高まる。逆説的に言えば、時間的・空間的にも変動を続ける環境の中にあっては、一様な遺伝子組成をもつ集団は環境変動に耐え切れず、絶滅し、結果として、多様な遺伝子組成を維持する集団が環境淘汰を生き残ることになる。このように種やその集団に遺伝的変異が存在する状態を「遺伝子の多様性」という。

 この遺伝子の多様性こそが、変化する環境の中で生物が進化するための必須アイテムなのだ。

 そして、大気中の COを吸収して O2 を供給する森林生態系や水を浄化する湿地生態系など生態系にもバリエーションが存在することによって、様々な生態系機能が融合され、地域全体の環境安定性、が維持されている。これを「生態系お多様性」という。人間という生物も、水や空気や食料が必要であり、そうした生命維持のための必須資源を供給してくれているのが、この生態系の多様な機能である。

 さらに大きなスケールでの多様性として「景観の多様性」がある。地域ごとに地形や気候といった環境要素と、そこに住む生物たちが作り出す固有の生態系との組み合わせによって、独特の景観=風景が構成され、地球上には様々な景観のバリエーションが在る。例えば日本の中でも、北海道の草原、瀬戸内海に浮かぶ島々、沖縄の密林など、地域ごとに異なる景観が展開している。そして、世界を旅行すれば、青い海にサンゴ礁が広がる南海の離島、うっそうと茂った熱帯林、どこまでも砂の大地が広がる灼熱の砂漠、雪と氷に覆われた南極大陸などなど、全く異なる景観と、そして全く異なる生物たちを私たちは目にすることができる。

 景観の多様性は、生物の生息環境の異質性・固有性を反映するものであり、生物多様性を実感する上での重要な生態学的指標と言える。しかし何より、我々人間社会にとって、景観の多様性は、精神的・文化的な生産性に重要な働きかけをする。新緑や紅葉、清流や青い海など、美しい風景は我々に自然の美という感動を与え、文化的なインスピレーションをも与えてくれる。目から入る情報だけでなく、川のせせらぎや、海の波の音、山林から聞こえる鳥や昆虫の鳴き声は我々の音感にも作用して、安らぎや喜びを与えてくれる。

 どこへ行っても全てが同じ景観だったら、この地球は、どれほど退屈で、つまらない世界になることだろうか。そんな世界では、今のような多様な文化や芸術も生まれることはなかったであろう。

 このように遺伝子から種、生態系、さらには景観に至るまで様々な階層で生物が織りなす多様な世界を「生物多様性」という。それぞれの階層性が重要な意味をなし、複雑性が機能の多面性と持続性(進化的発展性)を生み出している。人間の文明社会が作り出した食料や物資の供給システムである農業・工業といえども、水や土壌や空気がなければ稼働しない。人間の生活基盤は全て生物多様性に帰結する。

 さらに景観の多様性という、人間社会における文明的多様性の萌芽を生み出す機能までもが生物多様性には備わっており、人間社会を支える上での必須かつ重要な環境要素が生物多様性なのである。

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