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2021年3月 4日 (木)

生物多様性条約 ③

続き:

 分かりにくさの本質

 言葉を尽くしても生物多様性は分かりにくい。

 理由の一つは、戦後私たちが慣れ親しんだ思考(思想でも良い)と生物多様性が真っ向からぶっつかるからだと、考えている。

 戦後私たちの社会は、経済発展を志向した。経済発展の方策は、機能分化・単純化・効率化である。目的ないしは機能を一つに特化し、あらゆるものごとを規格化し、作業を単純化し、一つ一つの工程に掛けるコストを下げることだった。この考えでいけば、田んぼは食糧生産の場所。生産する食料の単位面積当たりの収量をいかに増やすかが重要で、大規模化・機械化が求められる。トンボやドジョウや昆虫が農薬や化学肥料によって死滅しても、コメの生産性にとっては、プラスこそあれ、何のマイナスもない。

 河川は、取水利用と排水を担う自然構造物だ。河川も蛇行していたら、雨による増水時にカーブで越流や洪水を起こす。なら、まっすぐな川が防災上も良い。ダムを造って水を貯め、利用、雨天時に三面コンクリート護岸の河川を使って、早く雨水を海に流した方が効率が良い。

 生物多様性を推奨する側の私たちは、大地と海が多様であるのが感覚的に良いことないし本質という前提で物語る。しかし、単純・効率を追求した社会を前提に考える人々では、多様性、即ち、機能的に見れば無駄に見える。もしかすると本当に益にも害にもならない存在もわざわざ許容することが賢明だという思想は、心のどこかで理解しにくい。

 大絶滅時代とは、この単純化志向に、限界が来た時代と言えるかもしれません。単純化しすぎたシステムの脆弱性が、健在化しているからだ。

■ 生物多様性の劣化は何を引き起こすか

 パソコン画面が黒い無機質な「重大なエラーが検出されました」というメッセージを表示する前に、定期的なシステムチェックとメンテナンスをしたほうが良いにちがいない。しかし、自然環境相手では、このチェックとメンテナンスのコストが税金として使用されるはほとんどなかった。定期的に、エラーメッセージが表示されていたにもかかわらず、である。

 「生物多様性」の劣化(自然環境の結果)が引き起こすものとして、種の絶滅、あるいは、「絶滅危惧」種と呼ばれる生物の発生が有名だ。国際自然保護連合(IUCN)が、この絶滅危惧種のリスト(レッドリスト)を年二回程度更新していて、その結果はたびたびニュースとなる。2020年で言えば、マツタケが絶滅危惧種と判定されたことが報じられたのは記憶に新しいのではないか。判定法を極めて単純化すれば、絶滅しそうなほど減っていることがポイントだ。絶滅危惧は、一定の増減はあるものの安定するはずの生き物の数が、何らかの人間の手による影響で、数を減らす現象と言い換えてもよい。IUCNレッドリストは、50年以上にわたって最新の科学的知見を取り入れながら発展し、2002年以降は、毎年、定期的に更新状況を発表している。2002年の絶滅危惧種数は11177種であったが、2020年では、35765種と3倍増となっている。

 率直に言えば、多くの人が、絶滅危惧種と判定される生物種が増えているという地球からのエラー表示を大したものではないと受け止めてきたのではないか。2016年に、トナカイやコアラ、キリンが低懸念(生息に問題なし)というランクから絶滅危惧に跳ね上がった時も大して注目されなかった。二ホンウナギ(2014年に絶滅危惧判定)がワシントン条約での規制対象になるかが注目され、対象とならない、すなわちこれからも引き続き食べられることになると、安心の日々が続く。最新のレッドリストでは、マカダミアナッツを実らせるマカダミア(という常緑樹)が自然界では絶滅の危機にあることが分かった。私たちの口に入るマカダミアナッツの樹は品種改良されたもので、すぐさま影響はないが、未来の品種改良の元が危機だ。このニュースはほとんど知られていない。

 状況が大きく変わりそうなのが、今社会の注目課題である、新型コロナウィルスの発生だ。日本では、目の前の感染者数の増減と政府の経済対策とのバランスのかじ取り社会の注目が集まっている。しかし、そもそもの発生の原因は、森林破壊や人が自然の領域に過度に接近したことと考えられている。

 2020年末時点情報では、新型コロナウィルスは、DNAの類似性から、キクガシラコウモリの保有していたウィルスが元であり、そこから「何か」が媒介し、ヒトに感染するウィルスへと変異したと考えられている。そして、コウモリの生息地である森林の伐採や、伐採後に牧畜か農地という家畜や人との接触が多い土地へ転換され、自然界から人への感染ルートが生まれた可能性が高い。コウモリ類が豊富に生息する東南アジアの森の伐採理由の半数がパームオイルへの転換という論文が出されており、同論文では、パームプランテーションの拡大が、321種の絶滅危惧種の危機要因になっていると指摘されている。

 IPBES という研究機関の調査によると、2020年7月までに新型コロナウィルス感染拡大に8兆ドルの経済損失が発生したが、哺乳類や鳥類から人に感染しうるウィルスは82万種以上も自然界に存在すると推測されている。同期間の調査では、野生下のウィルスを封じ込める自然保護には、年間780億ドル投じられているが、これは、被害額のわずか 1/100 程度であり、パンデミックの監視やハイリスク地域の特定など予防的取組に社会として投資することが賢明な選択肢えあると提案している。

 

 

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