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2021年3月 3日 (水)

生物多様性条約 ②

続き:

 「生物多様性」という言葉

 内閣府が2019年に行なった「環境問題に関する世論調査」によると、五割が「生物多様性という言葉を聞いたことがあり、二割がその意味を知っていると答えている。同調査では、若い層の認知度の伸びが顕著で、20代においては2009年に三割強だった言葉の認知度が、六割強と倍増している。

 この言葉が生まれ広まったのは、アメリカの「全米科学アカデミー」主催によるシンポジウム(1986年開催)だと言われている。新しい言葉であるにもかかわらず、シンポジウム開催翌年の1987年には、国連環境計画の下で、「生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)」の検討が始まっている。この国際条約化の動きを、日本自然保護協会が日本の自然保護NGOとしていち早くとらえ、大規模なシンポジウムで日本で紹介したのが、1991年の事。私たちが日常使う、自然(Nature)という言葉と比べれば、圧倒的に新しい言葉である。

 1992/05/22、条文が合意。1993/06/05、に始まったブラジルのリオデジャネイロでの地球サミット以降、生物多様性条約への各国の批准が開始された。

 生物多様性条約は、米国が批准していないため加盟国数で1ヵ国及ばぬものの、自然環境に関わる主要条約の中では、気候変動枠組条約(197ヵ国)に次いで2番目の加盟国数(196ヵ国)を誇り、1972年に成立した世界遺産条約、73年に成立したワシントン条約などを追い抜いて、国連加盟国のほぼすべてが参加する条約となった。

 この状況、よく考えると驚くべきことだ。

 生物多様性より、世界遺産のほうが有名だろう。世界遺産条約は、加盟した国が、自国の顕著で普遍的価値を持つ文化財あるいは自然景勝地を世界遺産として推薦することができる仕組みだ。しかし、生物多様性条約の方が、世界遺産条約(193ヵ国、2020年12月時点)より加盟国数が多い。空港に行くと、海外旅行で買ってきたいけない動物やその一部(象牙、毛皮など)を使った製品の注意喚起をするポスターや展示物が置かれている。適正な手続きを経ない場合、”ワシントン条約違反”の違法取引とされ、製品没収あるいは悪質な場合、多額の罰金や懲役刑まである。ワシントン条約加盟国は183ヵ国だ。

 因みに、日本だから知られていないわけではない。数年前に英国で行なわれたアンケート調査では「バイオダイバーシティー」とは何かを問われ「新製品の洗剤」という回答もあったという。

 生物多様性の定義と持続可能性

 生物多様性の定義はさまざまにある。

 2008年に施行した生物多様性基本法第二条の定義では、「この法律において、生物の多様性とは、様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在するすること」とある。

 環境省生物多様性センターのウェブサイトでは「生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこと。地球上の生きものは40億年という長い歴史の中で、さまざまな環境に適応して進化し、3000万種ともいわれる多様な生きものが生まれました。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支え合って生きています。生物多様性条約では、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という三つのレベルで多様性があるとしています」とある。

 実は、生物多様性条約の定義は、前記と少し異なり、その違いの部分が大事な点だ。生物多様性条約第二条によると、「生物の多様性とは、すべての生物(略)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性及び生態系の多様性を含む」となっている。ここで「変異性」と訳された英単語は variability で、「変わる」あるいは「多様に変化する」という意味を持つ動詞 able がついた言葉である。「変わる力があること」と意訳して捉えても良い。

 生物多様性条約の定義を砕いていうと、「生物多様性とは変わる力があること、あるいは、変わる力がある状態を意味する。それは遺伝子・種・生態系の三つのレベルで考えられる」となるだろう。

 遺伝的多様性とは、一つの種の中で違いが生まれる可能性があることを意味する。遺伝的多様性があるということは、ある種の中で疾病が流行った場合も、その疾病に強い個体が生まれ、種として存続する可能性が高まることにつながる。種の多様性があるということは、ある生態系の中で、例えばアブラムシを食べるテントウムシが少なくなっても別種(例えば、アブラムシに寄生するハチ)が機能を果たすことで、生物種間の個体数のバランスが崩れず、保たれることにつながる。生態系が多様で、連続性を保っていれば、環境に何らかの変化があっても生態系全体としてのバランスが崩れないという意味となる。

 人材のダイバーシティと言えば、VUCA (変動、不確実、複雑、曖昧を表す英単語の頭文字をとった造語)時代のビジネス生存戦略として認識されているが、この地球上で見られる生物多様性は、野生動植物やそれらが複雑に構成する生態系が、人類よりはるかに長い歴史の中で展開した生存戦略が生み出した最適解、数多くの変化を乗り越えた最適なパッケージと捉えることができる(もちろん、種や個々の生態系に、戦略といった意思はなく、結果として残っただけであるが)。

 

 

 

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