生物多様性条約 ⑥
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■ 愛知目標の成果と課題
2020/09/15、生物多様性条約事務局は、愛知目標の最終評価を記した「地球規模生物多様性概況第五版(GBO5:Global Biodiversity Outlook5) 」を発表した。国際機関や各国の施策や報告を基に、愛知目標に沿ってなされた評価となっている。キーメッセージは次の通りだ。
・内包する要素をすべて達成まで満たした目標は、20目標中ゼロ
・愛知目標20目標を分解すると60要素。要素が達成されたと判断できるのは7要素(外来侵入種の侵入経路優先度の把握、陸の保護地域面積拡大、海の保護地域面積拡大、名古屋議定書の早期発効、国家戦略策 定推進、科学技術の増大、生物多様性に関する国際支援金額の倍増)となり全体の12%、約1割である。
・「あらゆる政府・先住民や女性・ユースを含むあらゆる社会の役割強化」、「数値目標などのよりよく設計された目標設定」、「ポスト2020枠組みの合意から、計画策定と実施の間のギャップをなくす工夫」「順応的な実施の仕組みや、各国や機関による取組の意欲度を高めるなどの実施の強化」が、次のポスト2020枠組みに向けた教訓。
・この10年の成果を活かすとともに、SDGs の達成と人と自然の共生する社会を目指すには、土地利用、農業、淡水、漁業、食料システム、都市とインフラ、気候アクション、ワンヘルスアプローチのテーマでの改革が必要である。
このように、過去10年に及ぶ条約や各国の取組の全体評価は厳しいものが多くみられるが、成果も確実に見られている。2010年平均で比較すると、森林の伐採面積は、33%減少(但し、減少面積の算定には、オーストラリアやブラジルで起きた森林火災面積が算定無しの可能性があり)させることができた。これは、サッカー場20面/分の速度が、13面/分にまで抑えられたことになる。
IUCNレッドリストでも、絶滅危惧と判断される種数は残念ながら増えているが、それでも、この20年間の保全活動によって、哺乳類や鳥類の絶滅リスクの増加を、半減ないし!/4まで抑えることができた。
持続可能な消費と生産に関する愛知目標4の評価においては、生物多様性への配慮を生産や調達指針に組み込んだ企業の割合が、産業ごとに異なるものの大きく増加していることが報告あり。
■ 生物多様性国連サミットの開催
2020/09/30、第74回国連総会は、記念すべき国際連合設立75周年にあたる2020年の特別セッションのテーマに「生物多様性」を設定し、国連生物多様性サミットをオンラインで開催。背景にはポスト2020枠組みの意欲度を高める狙いがあった。
150カ国のリーダーの発言では、りくとかいようの30%を自然保護の場所とするといった数値目標設定の意義や、自然再生の重要性、意欲的な目標設定と同時に、意欲的な実施への支援の必要性を言及する途上国などの声が目立った。
日本からは小泉環境大臣がスピーチ、里山イニシアティブの成果を強調しつつ、ESG投資や認証製品の推進、サプライチェーンの見直しなど、社会経済システムの再設計(リデザイン)と分散型社会への移行の重要性を指摘、企業への期待を強く印象付ける発言を行なっている。
国連生物多様性サミットで注目すべきは、各国の政治リーダーの発言だけでなく、国連サミットに向けて企業関係者が「意欲的な目標設定と実施」を求める声を発信していた点である。企業の動きが、愛知目標設定時に比べてはるかに大きな声となっているのが、「ポスト2020枠組み」交渉のポイントの一つとなっている。
Business for Nature という企業グループは、次の10年に自然の損失を取り戻す政策の採択を政府に求める共同声明を、9月21日に発表した。そこでは、意欲的な目標設定、人・自然・気候に関する政策の統合、自然の価値を踏まえた意思決定、自然を損なわないための補助金や奨励措置への見直し、取組推進のための支援の充実などを求めている。この声明には、日本企業では、イオン、日立、MS&AD、三菱地所、住友林業、損保ジャパン、などが名を連ね、世界では、グーグル、コカ・コーラ、ウォルマートなどが参加。54ヵ国560社が賛同を示し、社員総数950万人、経済規模4兆ドルに上る声となっている。(なお、2020/12/01段階で、賛同企業は600社以上に拡大中)。
2020/09/25、に、アセット総額3兆ユーロに達する26の金融関係機関(銀行・保険・投資管理)が、国連サミットに向け、「生物多様性のためのの財政・金融公約」を発表。生物多様性の損失を取り戻す10年にするような力強い政策を世界リーダーに求めると同時に、金融機関自らも利害関係者である企業に対し、生物多様性に関する目標設定や報告を求めていく仕組み構築を、遅くとも、2024年までに行なうと宣言した。この宣言は、12月9日に、11社が加わり、アセット総額4.8兆ユーロ(600兆円)に到達。日本のGDPに相当するマネーの行く先が、生物多様性への配慮を掲げる企業に移り、届いた先の企業による情報開示が進むことになっている。なお、ここに日本の金融機関名は連ねていない。
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