Social Science 大人のう蝕リスクとその対処を考える ③
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4, 頭頸部放射線治療にともなう放射線性う蝕
唾液の役割には再石灰化作用、浄化作用、酸緩衝作用、抗菌作用などがある。この為、唾液の減少は、う蝕発症の重大な要因である。日本歯科保存学会『う蝕治療ガイドライン』でも「放射線性う蝕」に注目している。頭頸部を照射野にした放射線治療では、有害事象として唾液腺障害が起き、これにともない唾液分泌の低下が起きる。この為、放射線治療開始前から終了後も、計画的に口腔ケアを継続することが、多発性う蝕を防止する意味で非常に重要なのだ。頭頸部放射線治療を受ける患者はすべて、う蝕のハイリスク者と見なすべき。
5. う蝕のリスクファクターを考える
う蝕はバイオフィルム感染症であるから、う蝕のリスクファクターを、宿主(歯と唾液)に属するものと、プラークの性状や蓄積に属するものとに整理して考えるとよい。
歯に関わるファクターにはう蝕経験(DMFT)やフッ化物の利用状況があげられる。唾液の分泌量や緩衝能に関連するのは、薬剤の副作用、多剤服用、加齢、放射線治療、ストレスである。
プラークの性状や蓄積に属するファクターには、ブラッシングと歯間清掃によるプラークの機械的除去、食習慣すなわち糖質の摂取量と摂取頻度、また、ここにもフッ化物の利用状況が関係する。これらのファクターの背景として、受診行動(症状がある時にだけ受診するなど)、経済的・釈迦的環境、口腔健康への関心度があげられる。
6. う蝕リスクの評価
前述の各う蝕リスクファクターの重みと相互関係を統合し、最終的にう蝕リスクを高・中・低と判定する。リスク判定を、特段のツールを用いずに自分の経験則からされている臨床家も多い。また、それぞれのデンタルクリニックで独自にリスク評価の基準を設けてリスク判定のプログラムを設定されている場合もある。いずれにせよ、リスク判定に欠かせないのは、”う蝕は多因子性疾患である”ことを、その根拠と合わせて理解しておくことである。
7. 利用できるう蝕リスク評価ツール
う蝕リスク評価するのに、わが国で利用できる代表的ツールとして、ここでは、CARIOGRAM、CAMBRA、CRASP を紹介。
1) CARIOGRAM (カリオグラム)
スウェーデンで発展してきたカリオロジーに基づき開発された。最も長く研究されてきたう蝕リスク判定ツールといえる。患者教育にも有効で、患者はう蝕が多因子性疾患であること、またリスク低減にはどの因子がどのような重みを寄与するかを、視覚的に容易に理解できる。(株)オーラレケアが日本に導入し、現在、誰もがフリーアクセスで無料ダウンロードできる。
2) CAMBRA (Caries Management by Risk Assessment : キャンブラ)
米国カリフォルニア歯科医師会と UCSF (カリフォルニア大学サンフランシスコ校)とが共同で開発。う蝕リスクを「疾患指標」、「リスク因子」、「防御因子」それぞれのファクターから評価し、そのう蝕リスク評価フォームはシンプルで使いやすく、無料でダウンロードできる。これにシステマティックなう蝕予防管理が連結されている。わが国では、(株)ヨシダがう蝕予防管理方法として導入している。
3) CRASP (Caries Risk Assessment Share with Patients : クラスプ)
日本ヘルスケア歯科学会代表の杉山精一氏が中心となって開発した日本発のう蝕リスク評価プログラムである。う蝕リスクに大きく関わる「生活状況・飲食習慣」、「口腔衛生習慣」、「口腔内の環境」、「う蝕病変の有無」の4因子の変化を、初診時だけでなく経年的にモニタリングすることに重点が置かれ、把握したリスクを患者と共有することが特長である。現在、誰でも使えるように一般公開されており、日本ヘルスケア歯科学会のホームページから CRASP(ver. 3.0) 入力用紙と使用マニュアルが無料ダウンロードできる。
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