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2021年4月11日 (日)

人間と科学 第322回 今と似ていない時代(6) ②

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人間にとって切実な問題に切り込むためには、100年や10年、場合によっては 1年といった「短い」時間で起こる変動について、理解を深めていく必要がある。それには、地球の時間と人間の時間の圧倒的なまでの乖離を、なんとかして克服する必要があった。

 「年縞」と言う特殊な地層は、そのような文脈の中で脚光を浴びた。深い淵の底などの特殊な環境では、プランクトンの死骸や空中にただよう「塵」といった、細かい粒子が静かに降り積もり続けている。日本のように季節が明瞭であれば、湖底にたまる粒子の種類も季節によって変わる。湖底に酸素が届かず、生物が生息できない環境であれば、季節ごとにたまる薄い地層は誰にも乱されることなく、そのまま何千年、何万年と保存されていく。

 このような地層を掘削によって採取し、縞模様の上を剥ぐように細かく分析すれば、それがたとえ何千年も昔であっても、原理的には、当時の出来事を 1年刻みで復元することができる。言い換えるなら、当時の人々が幼年期、青年期、壮年期、老年期にどのような環境の中で生きていたか、解明することができるのである。

 こうして地質学は、年縞によって人間の時間との具体的な接点を手に入れることができた。年縞の研究は、1980年代ごろから本格化し、90年代には地質学の大きな潮流の一つになった。それから現在までの間に、世界中で年縞が発見された地点の数は数百ないしそれ以上に達する。だが、世界中の年縞の中でも特に卓越した存在感を放つ年縞、いわば年縞のチャンピオンが日本の福井県にあることは、一般にはあまり知られていない。

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