Science 口腔内超音波診断のご紹介~オーラルエコー~ ④
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5. 口腔内超音波診断を適用した症例
本項では、日常診療で出合う可能性のある口腔粘膜疾患の中、口腔内走査で特徴的な所見を得られた舌および頬粘膜疾患の典型的な超音波画像所見を述べる。
1) 舌扁平上皮癌
80代の女性。舌の主張を指摘されて来院。自覚症状は無いという。舌左側縁に直径10mm程度のやや隆起した表面顆粒状の腫瘤を認める。
口腔内超音波診断では、病変は粘膜上皮層と連続性のある結節状の低エコー域として認められる。深部辺縁は境界不明瞭で辺縁不整だ、深部に比較的低エコーの領域を伴っている。ドプラでは、この比較的低エコーの領域を中心に深部辺縁に沿って血流が認められ、病変内にかけて樹枝状に伸びている。ストレインエラストグラフィでは、病変は周囲の筋組織と比較し硬い傾向(撮影条件では青く表示)にある。超音波像上では、扁平上皮癌として典型的な所見と判断される。病変の厚さは3mm程度、DOIとしては2mm程度。なお、超音波像上でのDOIは腫瘍に隣接する正常粘膜基底部を結んだ仮想線から、腫瘍の最深部までの垂直的距離として計測している。舌部分切除術が行われ、病理組織学的には扁平上皮癌であった。病理組織学的なDOIも2mmであった。
2) 舌の膿原性肉芽腫
90代の女性。舌の腫脹を主訴として来院。3か月前に気づき、その後徐々に増大してきたという。舌背部中央に有茎性で境界明瞭な直径10mm程度の無痛性の腫瘤を認める。口腔内超音波診断では、舌背部粘膜下に長径12mm・厚さ6mm程度の有茎性の病変だった。内部はやや不均一な比較的高エコーで、ドプラでは茎部から病変内部にかけて豊富な血流が認められ、深部は舌動脈あるいは舌深動脈との連絡が疑われる。ストレインエラストグラフィでは、病変は周囲の筋組織と比べわずかに硬い傾向にあるが顕著ではない。病変は粘膜下結合組織層と連続像で、内部エコーが扁平上皮癌よりも高く、血管性(血管腫など)または肉芽腫性の病変の可能性が考えられる。切除術を行い、病理組織学的には膿原性肉芽腫だった。
3) 頬粘膜扁平上皮癌
70代の女性。左側頬粘膜部の白斑の精密検査を希望し来院。数年前から自覚していた。しかし、増大傾向にはなく痛みがないためそのままにしていたという。左側頬粘膜部には大臼歯相当部に白色病変、さらにその後方にびらん状の病変を認める。
口腔内超音波診断では、病変は粘膜上皮層と連続性のある低エコー域として認められ、粘膜上皮層の肥厚像として描出される。深部辺縁は境界比較的明瞭で辺縁は比較的整であり、ドプラでは深部辺縁に沿って血流が認められ、病変内にかけて樹枝状に伸びている。超音波像上では、扁平上皮癌として矛盾しない所見と判断される。病変の厚さは2mm程度、DOIとしては1mm程度である。腫瘍切除術が行われ、病理組織学的には扁平上皮癌であった。病理組織学的なDOIは0.6mmだった。
4) 頬粘膜の繊維上皮ポリープ
80代の女性。左側頬部の腫脹を指摘されて来院。自覚症状はないという。左側頬粘膜部に直径10mm×高さ4㎜程度の弾性軟で可動性のある有茎性の腫瘤を認める。
口腔内超音波診断では、左側頬粘膜部に長径12mm・厚さ5mm程度の有茎性の病変を確認。内部は均一な高エコーで、ドプラでは茎部から病変内部にかけて樹枝状の血流が認められる。病変は粘膜下脂肪層と連続像で、内部エコーが扁平上皮癌よりも高く、線維腫等の過形成病変の可能性が考えられる。腫瘍切除術が行われ、病理組織学的には繊維上皮性ポリープであった。
5) 下唇の血管内乳頭状内皮過形成
50代の男性。左側下唇部の腫脹を主訴として来院。1年前から自覚していたが、増大傾向はなく痛みがないためそのまましていたという。左側下唇部にやや硬く可動性のある米粒大の腫瘤を認める。
口腔内超音波診断では、左側下唇部粘膜下に長径8mm・厚さ3mm程度の低エコーの病変を確認する。内部は不均一な低エコーで、境界不明瞭で辺縁には凹凸が認められ、ドプラでは病変周辺部から内部にかけて血流が認められる。病変は粘膜下結合組織内に位置し、粘膜上皮層との連続性は認められず、扁平上皮癌は否定的で、部位的に唾液腺腫瘍、血管腫等の可能性が示唆される。切除術が行われ、病理組織学的には血管内乳頭状内皮過形成であった。保存された超音波動画を後方視的にみると、血流は明瞭な動脈性の拍動を有しており、当施設の以前の報告と共通の特徴を有していた。
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