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2021年4月16日 (金)

Science 口腔内超音波診断のご紹介 ~オーラルエコー~ ①

林 孝文(新潟大学大学院医歯学総合研究科顎顔面放射線学分野教授)さんの小論文を載せる コピーペー:

1. はじめに

 画像診断法は、生体内部を可視化する技術であり、日常の歯科臨床において必要不可欠なものである。生体内の診断画像を得られる診断法としては、CTやMRI、PET等があるが、超音波診断は、これらの中では低コストで簡便、電離放射線被ばくがなく非侵襲的という特徴を持ち、特に最近では、診断装置の小型化進み、医科領域では主治医が聴診器代わりに利用するようになってきている。超音波診断は生体内を透過した超音波の反射を画像化しており、特に軟組織に主眼を置いて設計されているため、歯や顎骨などの硬組織内部には適さない。このため、歯科領域における利用は限定的、それで、口腔外科領域以外の一般歯科診療にはほとんど活用されていないのが現状である。

 しかしながら、歯周組織や粘膜、筋、唾液腺などの歯や顎骨の周囲の軟組織の診断には有効である。診断装置がさらに小型化・低価格化して口腔内でも使いやすい探触子の開発が進めば、医科領域でも今後利用される機会が増える可能性は高いと思われる。

 本稿では、口腔内超音波診断の概要の紹介と歯科臨床における将来的な可能性について述べたい。

2. 超音波診断(エコー)の原理

 人間の耳で聞くことのできる音の周波数(20~2万 Hz)は可聴域といわれており、これより高い周波数の音波を超音波と呼んでいる(最近では「聞くことを目的としない音」という定義もある)。超音波は弾性波と呼ばれる波動であり、水、生体、空気や金属などの媒質中を伝搬するが、媒質のない真空中では伝わらない。超音波は均一な媒質中では直進し、媒質の音響インピーダンス(密度×音速)に差があると、一部は反射し、残りは透過する。超音波が生体内に入射すると、透過した超音波は音響インピーダンスの異なる境界面で様々な程度の反射を生じる。超音波診断は、この反射波を受信して、解剖学的な生体の構造や組織の性状、動きや血流分布の状態を画像化する方法である。

 超音波診断はCTやMRIと異なり、探触子(プローブ)を皮膚や粘膜などの生体表面に、超音波が透過しやすいように音響カップリング材などを介在させ、密着させて情報を収集する。探触子内部には超音波振動子(圧電素子)が組み込まれており、超音波を発信するとともに、生体から戻ってきた超音波を受信しているのだ。受信した反射信号の強さを白黒の明るさ(輝度:Brightness)に変換して、二次元画像に表現する方法は Bモード法と言われ、反射が強い場合は明るく、弱い場合は暗く、リアルタイムの動画として断面画像として表示されるため、臨床に最も広く利用されている。Bモード画像において、病変が周囲組織と比べて輝度が高い(白い)場合は高エコー(hyperechoic)、輝度が低い(黒い)場合には低エコー(hypoechoic)という。

 音の発生源が観察者に近づいてくる場合、音の高さ(周波数)が本来よりも高く聞こえ、遠ざかる場合に低く聞こえる現象を、ドプラ(Doppler)効果という。超音波診断においては、血管の中を流れている血球により、このドプラ効果が生じる。ドプラ法とは、この効果を利用して血流の速度や方向などの情報を知る方法で、通常、Bモードの画像にカラー化した血流情報をオーバーラップして表示する。

 本来、生体に存在しないはずの構造が虚像として現れることを、アーチファクトという。超音波診断は反射を利用しているため、多種多様なアーチファクトが生じる。なかでも、音響陰影は、超音波を著しく反射する構造があると、その背後に真っ黒な帯状の無エコー域が出現することをいい、唾石などの石灰化物の診断に役立つことがあるが、歯や顎骨の内部はそもそも音響陰影の中に隠れてしまっているともいえる。

 超音波診断において、最近一般的に用いられるようになってきた新たな技術に、組織弾性イメージング(エラストグラフィ)がある。組織の硬さを画像化したもので、探触子の操作に伴って組織に生じた歪みを色の違いとして表示する。手法(ストレインエラストグラフィ)と、診断とは別の音波を発生させてそれが伝わる速度で硬さを計測する手法とが実用化され、Bモード診断に補助的に利用されている。ドプラ法と同じように、カラー化した硬さ情報をBモードの画像にオーバーラップさせて表示するのが一般的である。

 

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