Social Science 大人のう蝕リスクとその対処を考える ④
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8. う蝕の検査・診断・対処の国際標準化
多くの分野で国際統一が進む中で、う蝕の検査と診断法が、ICDAS (International Caries Detection and Assessment System : 国際う蝕検出および評価システム)として確立され、既にわが国にも普及し始めている。この ICDAS から得たう蝕の状態と、前項で説明した個人レベルのう蝕リスクを合わせて、最終的に歯のう蝕リスクを判定し、リスク対応までをシステマティックに導き出すのが ICCMS (International Caries Classification and Management System : 国際う蝕分類・管理システム)である。この文の内容はこの ICDAS と ICCMS に基づく。
!) ICDAS
う蝕の診断基準で普段目にする C O、C 1、C 2、C 3、C 4 は、わが国のローカル・ルールであり、実質欠損のみを判断基準としている。一方、ICDAS は、歯冠部う蝕と根面う蝕を対象とし、実質欠損に加えてう蝕の活動性もコードで示す。また、初期エナメル質脱灰を病変と判断することが特徴なのである。2017年に初めて保存修復学の教科書に登場し、2019年には第112回歯科医師国家試験に出題された(問題「ICDASについて正しいのはどれか」・正解「歯面乾燥後に肉眼で初期脱灰病変を鑑別する」)。こうして教育現場に導入されたICDASが、う蝕診断基準のグローバルスタンダードとしてわが国の臨床に根づく日は遠くないと考えている。
ICDAS の基本は視診である。簡単に手法を述べると、まずは可撤性装置を取り外し、歯面を清掃、その後ロールワッテを置き、余剰な泡状態の唾液を除去、まずは唾液に塗れた状態で歯面を観察する。ついで5秒間歯面を乾燥させ乾燥状態の歯面を観察。こうして、ICDASでは、歯冠部う蝕は Code 1~ 6、根面う蝕は Code 1か2を判定。次いで、Code 分類したそれぞれのう蝕の活動性を評価する。活動性は、主に視診で、色、表面の滑沢性、プラーク蓄積状態から総合的に判定する。
根面う蝕については、探針を軽圧で用い触診で、「硬い(非活動性)」、「なめし革様(非活動性と活動性の中間)」、軟らかい(活動性)」と評価することも有効。
2) ICCMS
ICCMS では最終的にう蝕リスクが判定できたら、そのリスクに応じて非侵襲的(非切削)か、または侵襲的(切削介入)かの対処を提案すること。現在、ACFF 日本支部が、わが国の臨床や教育への導入を目指し e- ラーニングの制作に取り組んでいる。
9. う蝕リスクに応じた非侵襲的対処(非切削)
1) う蝕リスクが低い場合
●セルフケア:フッ化物配合歯磨剤 (1000ppm 以上)、1日2回のブラッシング(イエテボリ法による)、歯間清掃(デンタルフロス、歯間ブラシ)
●プロフェッショナルケア:科学的根拠に基づきう蝕の予防と進行抑制を説明する
●リコール:間隔は 6~12か月を標準とするか、リスクに応じて歯科医師が判断する
2) う蝕リスクが中等度の場合
●セルフケア:フッ化物配合歯磨剤(1450ppm 以上)、1日2回のブラッシング(イエテボリ法による)、歯間清掃(デンタルフロス、歯間ブラシ)、
フッ化物配合洗口剤(225~900ppm)の併用
●プロフェッショナルケア:科学的根拠に基づきう蝕の予防と進行抑制を説明する。シーラント、2%フッ化物ゲル(9000ppm)またはフッ化物配合バー
ニッシュ(22600ppm) を1年に2回塗布、唾液分泌を低下させる薬剤の変更
●リコール:間隔は3か月を標準とするが、リスクに応じて歯科医師が判断
3) う蝕リスクが高い場合
●ホームケア:フッ化物配合歯磨剤 (1450ppm 以上、入手可能なら 5000ppm)、1日2回のブラッシング(イエテボリ法による)、歯間清掃(デンタルフロス、歯間ブラシ)、フッ化物配合洗口剤(225~900ppm)の併用
●プロフェッショナルケア:科学的根拠に基づきう蝕の予防と進行抑制を説明する。シーラント、2%フッ化物ゲル(9000ppm)またはフッ化物配合バーニッシュ(22600ppm)を1年に4回塗布、唾液分泌を低下させる薬剤の変更、食事指導で糖質の制限
●リコール:間隔は3か月を標準とするが、リスクに応じて歯科医師が判断
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