人間と科学 第322回 今と似ていない時代(6) ①
中川 毅(立命館大学古気候学研究センター長)さんの小論を掲載。コピーペー:
地質学は伝統的に、とても長い時間を扱うことを強みにしてきた。
人間が文字で残すことのできる記録は、せいぜい数千年前までしか遡ることができない。それ以前のことは、すべて漠然とした「有史以前」に分類される。一方、現代の地質学は、地球の年齢をおよそ46億年と見積もっている。つまり地球の歴史は、人間の「歴史」のおよそ100万倍の長さを持っているのである。1mmと1kmの違いが丁度100万倍であることを思えば、人間の時間と地質学の時間の乖離がどれほど大きいか、実感してもらうことができるだろう。
ところが最近、地質学は人間の時間との接点を模索するようになってきている。その背景にあるのは、世界中で議論されることの増えた地球温暖化の問題である。
地質学がこれまで、気候変動と向き合ってこなかった訳ではまったくない。この連載でも紹介した、氷期と間氷期のサイクルの解明などは、地質学の主要な成果として誇ることのできる金字塔だし、それによって人間の世界観は大きな修正を受けてきた。だが、それらの発見が果たして私たちの生活に直結しているかというと、答えは恐らくノーである。今から1万年後の地球が氷期であるかどうかは、今を生きる私たちの大半にとって、切実な関心事にはなっていない。
だが、それが100年後だったらどうだろう。今の子どもたちの孫の世代は、100年後の地球で実際に生活している可能性が高い。さらに直近の10年後であれば、その時に地球が温暖であるか寒冷あるかは、人によっては大きな経営判断に直結するほどの切実さを持っている(たとえば自分がスキー場のオーナーであるような場合をイメージして欲しい)。
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