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2021年4月12日 (月)

人間と科学 第322回 今と似ていない時代(6) ③

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 福井県南部の若狹町に、水月湖という風光明媚な湖がある。水月湖の底には、年縞が厚さにして45m、年月で言うなら7万年分もたまっている。カバーする時代の長さだけでも特筆に値するが、水月湖の年縞はさらに、日本、オランダ、イギリス、ドイツなどの研究者によって徹底的に分析されており、過去7万年の間に起こった気候変動について、詳細な復元が進められている。

 水月湖の年縞から明らかになる出来事の幅は、途方もなくとても紹介しきれなく広いが、例としてこの連載の初回にも、載せた、氷期の終わりに起こった気候変動に注目してみると、

 今から約 11650 年前、氷期が終わって温暖な時代が到来した。そのとき水月湖の周辺では、年平均気温が 2~3℃ほど上昇した。それほど大きな数字ではないようにも見えるが、問題は変化に要した時間である。この温暖化の前後で、水月湖の年縞の見た目に変化がある。氷期の年縞は黒っぽくて相対的に薄いのに対し、氷期が終わった後には、白っぽくて厚い年縞がたまりはじめる。この変化は、おそらく湖周辺の温度の上昇を反映していると思われている。

 性質の違う年縞の境界線は、定規で引いたようにシャープだ。一年に一枚ずつたまる年縞の中に明瞭な線が見えるので、この変化はどうやら 1年以内に完結していたらしいことになる。1年で年平均気温が 2~ 3℃も変わるような劇的な変化を、有史以来の人類はまだ経験していない。

 またもう一つの特徴として、氷期の気温はバタバタと慌ただしく上下しているのに対し、氷期が終わった後の気候は相対的に安定しているように見える。これは以前にも紹介した、グリーンランドの氷床の分析結果とも一致した傾向である。氷期が終わったとき、人類は温暖で安定な気候を手に入れた。それ以降の世界では、直近の未来であればある程度「予測」し、「準備」することが意味を持つようになった。それまで予測不可能な世界を移動と狩猟採集で生き延びてきた人類は、そこから定住と農耕を基軸とするライフスタイルへと、大きく舵をきっていくのである。

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