人間と科学 第323回 植物と薬と人間(1) ②
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精油を含む生薬は多くあるが、その中でも歯医者さんになじみの深い生薬が丁子(あるいは丁香)だ。英語名はクローブ(Clove)で、東南アジア原産のフトモモ科植物のチョウジ (Syzygium aromaticum) にも示されているように、その刺激的で特徴的な香りによって、スパイスとしても重用されカレー料理の風味付けや肉料理の臭み消しに用いられる。
この特徴的な香りの元である丁子に含まれる精油は、その重量の 15~20%にも達する。この精油中 80%を構成する主化学成分がオイゲノール(ユージノール)である。この主成分オイゲノールには、鎮痛作用、抗炎症作用、局所麻酔作用などがあり、酸化亜鉛ユージノールとしての歯の仮封、歯髄の鎮痛消炎や補綴の目的で歯科領域において汎用されている。したがって、誰でもこの丁子の匂いを嗅ぐと「あっ、歯医者さんの匂い」と言って歯科治療を思い出すのである。
このオイゲノールは、殺菌薬や消毒薬としても用いられているが、基本的に強い油性の揮発性有機化合物である。薬学部教育のなかでは生薬鑑定の項目があり、重要な生薬を透明なプラスチック容器などに入れて教育に用いているが、丁子を入れた容器は、この揮発性の油成分であるオイゲノールの作用で白く曇ってしまう。それくらい、丁子の中のオイゲノール含有量が多く、揮発性が高くプラスチックを曇らせてしまう有機化合物である。
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