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2021年5月18日 (火)

実装される監視社会ツール ①

武藤糾明(弁護士)さんは「世界 4]に載せている。コピーペー:

 監視カメラや顔認証システムに対する法規制の提言、グーグルストリートビュー訴訟、住基ネット訴訟、マイナンバー訴訟等プライバシー保護をめぐる弁護団を努める。種々問題を取り上げている。

1 権利から義務への逆走――マイナンバーカード

 2021年3月、一部の医療機関の窓口に顔写真付きカードリーダーが設置され、マイナンバーカードを用いた本人確認が開始される。これは、全国民監視に向けた壮大な第一歩となるおそれがある。

 マイナンバーカード(「個人番号カード」)は、「国民の利便性のため」という説明で開始された。希望者だけが取得するもので義務はないというのが大前提だった。しかし今、カード保有の「権利」は「義務」に向かって一気に逆走し始めているのだ。

 2020年5月の健康保険法等の改正により、2021年3月からマイナンバーカードを健康保険証にすることが可能になった。そのため、顔認証付きカードリーダーがすべての医療機関・薬局へ無償提供されるほか、利用拡大に向け、社会保険診療報酬支払基金は、顔認証付きカードリーダー一台あたり100万円程度の補助金も支出する。

 厚労省は、受診の際には毎回、顔認証による本人確認を実施するよう求めている。もし実施しなければ、システム改修に要する費用等を含め、補助金の交付対象外とされる(「医療提供体制設備整備交付金実施要領」に関するQ&Aについて  2020/07/03)。さらに国は、「将来的に保険証の発行を不要としてマイナンバーカードのみの運用への移行を目指していく」(厚労省オンライン資格確認等システムに関する運用等の整理案(概要)令和元年6月版)として、紙の保険証を廃止することを示唆しているため、有無を言わせないあからさまな強制に向かっている。

 2020年9月、菅義偉首相は運転免許証のデジタル化についてマイナンバー制度を活用して推進するよう指示し、警視庁は2024年度中に実施するとしている。運転免許証の保有者は8200万人おり、今後、全員が一体化を名目にマイナンバーカードを強制的に取得させられる危険がある。現在、デジタル庁の設置も9月に出来る。そこではマイナンバーカードの拡大が重要な位置づけを与えられている。

 政府は、2015年、マイナンバーカードの公的個人認証を「イノベーションの鍵」と位置づけ、民間に開放することを前提とし、「個人番号カードをデビッドカード、クレジットカード、キャッシュカード、ポイントカーッド、診察券などとして利用」→「ワンカード化の促進」を予定している(マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(案)。以下、「ロードマップ」という)。運転免許証や健康保険証としての利用の行く先を示した矢印は、「全国民が個人番号カードを保有できる→すべての国民が安心安全にネット環境を利用できる権利を有する世界最先端IT国家へ!」とされる。

 このように、運転免許証や健康保険証とマイナンバーカードが一体化され、「全国民」が保有する制度が指向されているということは、その完成形として、保有するか否かは個人の自由でも「「権利」でもなく、「義務」であり、「強制」なのだろう。法律で正面から義務化規定を置かなくとも、事実上の強制となる可能性がある。「利便性」や「行政効率化」は、「個人の自由」や「個別の意思表示、選択」を排除し、異論を認めない一括処理のための悪しきマジックワードとして濫用されうる。

 単に「国民の利便性」のためのカードだとことであれれば、希望しない市民はカードを取得しないことによりプライバシー侵害などのリスクを回避できる。現在進行中のマイナンバー違憲訴訟においても、原告はカードを持っていないのでカード保有によるプライバシー侵害は現実化していない。しかし、事実上の強制となると、望まないプライバシー侵害となる。もちろんこれは、行政上の必要性・相当性がなければ不法行為となり得る。カードに紐付けられる個人情報が増えれば増えるほど、強制する場合にはプライバシー侵害の程度は大きくなり、違法の疑いは高くなるばかりである。しかし、現状は強制でないので、裁判でも争点化することができていない。時間差での強制という二段階のプライバシー侵害は、司法判断逃れができるという点でも、巧みである。

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