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2021年5月16日 (日)

Science 可視光線励起蛍光法の――歯科応用 ⑤

続き:

3) 歯内治療への応用

(1)  根管治療用内視鏡の開発

 歯科における精密な検査・診断および診療に顕微鏡が幅広く臨床応用されている。特に歯内治療領域および歯冠修復領域の診療でその有用性が数多く報告されている。歯科用顕微鏡の有効性は高拡大下で観察できるために診察・診断精度の向上と精密な治療が実現できるだけでなく、安定した診療姿勢の確保と十分な視認性能によりデンティストの健康維持にも寄与すると考えている。一方、歯科用顕微鏡は高価、機器が大きい、振動に対する配慮が必要など、導入や設置に関する要件があるだけでなく、術者に専門的な教育とトレーニングが求められるとともに、フォーハンドテクニックによる介助者の存在が必須だ。術者に高度なテクニックが求められる理由として、顕微鏡の視点が口腔外の対物レンズ先端にあるために、治療器具と術者の手指が術野を遮らないように対象物と接眼レンズの間に介入しなければならないことが挙げられる。

 ファイバースコープを応用した内視鏡はすでに医科で幅広く応用されているが、顕微鏡との最大の相違点として、視点がスコープ先 端にあるため、術野を確認しながら診察器具や治療器具を動作できる可能性や、口腔外からの直線的な視線では視認できない部位を観察できる可能性を秘めている。それにもかかわらず、歯科界ではあまり報告なし。

 オーラルスコープ OOS-1(長田電機工業、現在廃番)はハンドピースと制御用 PC (専用アプリのインストールが必要)で構成される歯科用内視鏡システムであった。我々はこれを根管治療に応用するために独自の根管内観察用ファイバー(約 90cm ) を開発・試作するとともに、ファイバーの先端チップを治療する歯に固定するための治療器具も開発することにより、根管内を PC 画面上で確認しながら歯内治療ができるシステムを試作した。

 筆者(長谷川)はこの歯科用内視鏡システムの光源にも青色励起光を応用してみた。すると、難治性の根治で抜歯に至った抜去歯において、通常の内視鏡の白色光源下では変色など、周囲の歯質とは識別できない根管壁象牙質に赤色励起蛍光を示す部位が観察されることが分かった。

(2)  青色励起光によって根管内感染歯質から発現される励起蛍光

 さらに、このような難治性の根治で抜歯に至った抜去歯を、歯軸と並行に縦断して根管の断面を露出させ、波長 408nm の青色励起光で根管壁を観察すると 300~400μm 程度の厚さで根管壁から赤い励起光を発現していた。この部位の象牙質の硬さをマイクロビッカース法で計測したところ、健全象牙質部に比べて 40%前後失われており、揮発性の根管貼薬剤が用いられなくなった現在では、これらの罹患象牙質を適切に認識して早期に除去しなければ治療の長期化は避けられないと考えられる。

(3)  青色励起光によって根管内浸出液から発現される励起蛍光

 感染根管治療においては、根管内清掃によって根管内に残る壊死組織や感染歯質、炎症性浸出液の分解産物が十分に除去された後、根尖周囲組織、根管内および象牙細管内微生物の減少を正確に評価した上で適切な時期に根管充填することが、根管治療成功のカギとなる。

 一般に根管充填の時期については、複数の臨床兆候を勘案して決定するが、根尖周囲組織、根管内および象牙細管内の無菌性(実際には菌数の十分な減少)は主に根管内細菌簡易培養検査(S簡培)によって評価され、炎症性滲出液の存在はカタラーゼ反応の有無などによって評価される。これらのうち、S 簡培は培養に 48時間を要し、即日の判定ができないため、現症と評価にタイムラグが生じることが避けられない。

 難治性根治化している根管内を洗浄した後に、清拭(洗浄液を吸収)したペーパーポイントに波長 405nm の青色励起光を照射して観察したところ、赤色励起蛍光が発現することが分かった。そこで、根管内洗浄後の液を吸い取ったペーパーポイントを青色励起光で観察することによって、根尖病変の評価、――根管内の細菌検査となる可能性を検討した。この結果、各種の兆候から根管充填ができないと判断された160症例の感染根菅で、39症例で根管内洗浄液を含むペーパーポイントが蛍光を発していた。これら 39症例において他の臨床兆候や検査情報との関連を調査したところ、 100%の症例で S 簡培での細菌(+)となった。次いで 90%の症例で打診痛、69%の症例で排膿などの随伴する臨床兆候が高頻度で確認され、青色励起光を応用した根尖組織即時診断法の確率が可能になることが示唆された。

 

 

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