実装される監視社会ツール ⑥
続き:
プライバシーと利便性という二律背反
現在の日本政府の姿勢は、マイナンバーの提案当初に見せていた厳格な利用制限の姿勢と、完全に矛盾している。
そもそもプライバシー保護のためには共通番号は利用しないか、利用するにしてもその範囲は限定的である方が良い。プライバシー保護と利便性がトレードオフの関係に立つことは内閣官房も当初から認識していた。マイナンバーの初期設定は厳密な限定によるプライバシー保護であった。
「マイ」ナンバーという名前は付いてはいるが、自分の意志で利用したりしなかったりを決められる個人情報とは全く異なり、法律で利用が制限されている。マイナンバー法 19 条は、その本人に対してすら、税・社会保障などの限定された目的のため以外の情報の提供を禁止している。たとえば、住宅ローンの審査(19条に規定されていない目的)のために番号付き源泉徴収票を銀行に提出することも違法(処罰対象ではないが)で、銀行は番号を黒ぬりにしての再提出を求めるしかないという厳格さだ。本人すら自由に扱うことを禁止し、民間での利用も原則として禁止し、収集者には罰則まで用意している法規定は、実は今も変わっていない。これは、マイナンバーの持つ性質――社会各所でばらばらに保有されている多様な個人情報を、横串を通すようにして結合できる――により個人が丸裸になることを防止するという、プライバシー保護のためである。
他方、ロードマップでは、無限ともいえる民間利用を促しているように見え、この両者の設計を整合的に説明することは困難だ。マイナンバーカードのICチップには、公的個人認証の電子証明書のデータが登載されている。総務省は民間企業に、この電子証明書の発行番号と顧客データを紐付けて管理、様々なサービスに活用するよう促している。そして、この発行番号には、マイナンバーのような利用制限がない。マイナンバーを用いたデータベースの作成が原則として禁止されているのに対し、あまりにもバランスを欠いている。勿論、カード利用が希望者だけなら自分の選択なので問題ない。しかし、マイナンバーカードの取得が事実上の強制になった場合、番号法では、厳格な利用制限がされているにもかかわらず、電子証明書の発行番号をもとにした商業利用は拒むことができなくなり、著しいプライバシー権利侵害が生れる。
「マイナンバーと紐付けた民間での情報利用は違法だから罰則で禁止している。電子証明書の発行番号と紐付けた民間利用は適法であり無限に行なってよい」というのは、詭弁だ。
生命・健康のために行動自粛を呼びかけながら、経済のためにGoToで広い範囲の移動を同時に促すという矛盾で国民を危機にさらすのと同じことである。過剰な利便性・効率性の追求は、同意しない者等のプライバシーを侵害する。強制は絶対に許されない。
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