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2021年5月25日 (火)

実装される監視社会ツール ⑧

続き:

無駄な二重行政

 アベノマスクを持ち出すまでもなく、市民や現場のニーズをよく確かめもせずに霞が関でいい加減な絵を描いても、利用者は増えない。実は、電子行政という目標は、住基ネットの時から掲げられていた。ここで住基ネットについて振り返っておこう。住基ネット差し止め福岡訴訟は、一審で以下の事実を証明した。

① 国が目標とするIT先進国のカナダ、アメリカなどには住基ネットが存在せず、電子政府・電子自治体に住基ネットが必要不可欠とはいえない。

② 国が「利便性」の例として挙げる転入転出手続きの簡素化や、住民票の写しの広域交付は、利用者5000人から1万人に1人の割合しか利用していない。

③ 国会に提出された国の行政効率化による経費節減の試算は、普及率が1%にも満たない住民基本台帳カードを国民の50%が保有することを前提としているが、今後も普及する見込みはないので無理な前提だ。その後、①については、イギリスはいったん国民IDカードを導入したが、保守党が廃止。②については内閣官房がマイナンバー通知時に作ったポンチ絵は、住基ネットの時と瓜二つで、進歩していないことを示している。③の行政効率化については、最終的に、国の必死の努力で廃止時には住民基本台帳カードの普及率は8%にまで伸びたが、「損益分岐点」である50%には遠く及ばず、「行政効率化」という名の経費節減はついぞ実現しなかった。赤字の垂れ流し、巨大な税金の無駄遣いに終わった。

 それでは、マイナンバーにおける行政効率化による経費節減の試算はどうか。なんと、国会に一切出ないまま、法案承認だったのだ。これは、「設計図の無い建築」に等しい。住基ネットで失敗したあとであるのに、行政は、示せないから示さないという責任逃れの荒業で突破を図った。

 2015年のロードマップでは、マイナンバーカードのワンカード化の次には「スマホ等のデバイスにダウンロードして代用できるよう研究・関係者との協議の上実現」としており、カードはスマホに代替されて不要になることを見切っている。しかも、「カードもスマホも持たずに……生体情報で代用も可能に」と、中国的現実まで描ききっているのである。最初からスマホや生体情報でデジタル化すれば、カードは不要だ(勿論、その方がなおプライバシー侵害は大きい)。計画立案者は、カード→スマホ→顔認証による顔パスの二重行政、三重行政による壮大な税金の無駄遣いの裏側にある莫大な利権に、笑いが止まらないだろう。

 この点でも、周回遅れで時代錯誤のカードを市民全員に持たせようとするのは、愚の骨頂だ。1995年以降のIT革命に乗り遅れ、世界の先頭からずるずると後退してきた日本の停滞を象徴しているかのようだ。

 財務省も指摘するように、行政のデジタル化は新たな課題ではなく、長年予算をつぎ込んで失敗したまま、その検証がない事業だ。外務省の、パスポート電子申請システム等は、年8億円のランニングコストで、2005年の申請件数は103件、パスポート1冊1600万円かかった。財務省が廃止要求して廃止された。

 鳥取県の片山善博知事(当時)は2006年、住基ネット1件当たりの利用単価が200万円との報告を受け、「実は、住基台帳ネットワークシステムというのは……壮大なむだの仕掛けですよね。もし可視的な装置あったとしたらぺんぺん草が生えていますよね。……将来役に立つかもしれませんよ。だけど、そんなことを言うんだったら箱物は全部将来役に立ちますよ」と述べている。

 走り出す前に、どこに向かって走るのか、また「走らない」メリットも十分吟味すべきだ。そうしなければ、確実に経費節減と行政効率化に逆行する。プライバシーを侵害しながら無駄をまき散らすツールになりかねない。

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