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2021年5月 3日 (月)

中国デジタル革命と監視社会の行方 ⑦

続き:

■ 理想社会かデジタル・ディストピアか

 中国のデジタル戦略は2015年、李克強首相が提唱した「インターネットプラス(互聯網+)」で大きく加速した。大衆による起業と万民によるイノベーションをめざす「大衆創業・万衆創新」と相まって、ネット通販やSNS、電子決済、コンテンツ配信はもちろんのこと、シェア・サイクルに代表される」シェアリング・エコノミー」や個人を格付けする「信用スコア」などのプラットフォームが立ち上がり、社会に変容をもたらした。

 一方、中国共産党は習近総書記が誕生した2012年の第18回党大会以来、情報化を通じて国家統治能力を強化する政策に邁進している。2019年10月の中央委員会全体会議では、「ネットの健全な運用、ビッグデータ、人工知能などの技術を使った行政管理制度の推進、デジタル秩序の強化、法に基づく個人情報保護」などが決議された。巨大プラットフォームが保有する情報に逮捕経歴、納税暦等の行政情報が紐づくことで、個人が丸裸となる社会が出現しつつある。

 中国は「デジタル・シルクロード」の名のもと、こうしたシステムの海外展開を狙っている。2019年12月、米シンクタンク「カーネギー国際平和財団」は、中国のハイテク企業から 63ヵ国に監視システムが輸出されたと指摘した。人権抑圧が懸念されるミャンマー、イラン、ベネズエラなどだけでなく、日本、フランス、ドイツなども含まれる。国際 NGO 「フリーダムハウス」や「オープンテクノロジー・ファンド」も同様のレポートを発表した。

 監視社会の広がりは中国だけでなく、米国でもAIベンチャー「クリアビューAI」がフェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどの SNS から 30億枚の画像を自動取集し、警察などに提供していたことが明らかとなり、大きな問題となった。こうした動きに対抗して、サンフランシスコでは公共機関による顔認証技術の利用を禁止。ほか、カリフォルニア州は 2019年9月、警察による顔認証技術の利用禁止法案を可決。またアマゾン、 IBM に続き、マイクロソフトが 2020年6月、警察への顔認証技術の提供を取りやめた。

 デジタル技術が極端な監視社会を生む危険をはらんでいることは明らかだ。「デジタル・ディストピ論」の論拠ともなっている。一方で人々がデジタル技術い求めているのは「利便性」とともに監視システムを利用した「より安全な社会の構築」でもあることが事態を複雑にしているのだ。

 ELSI という考え方がある。新技術が社会実装される時には、倫理的(Ethical)、法的(Legal)、社会的(Social) な課題(Issues) が解決されなければならないという考え方だ。その意味で現代中国のデジタル革命は、倫理、法律、人々のリテラシーが追い付かないまま、技術の社会実装が進んでいる状況と捉えることができる。科学技術は生み出すのもそれを使うのも人間。問われているのは、どのようなデジタル社会を構築するかという「人間の意志」なのである。

 

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