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2021年6月23日 (水)

人新生――新たな地質時代の科学と政治 ④

続き:

変容するグローバル・コモンズ

 ここまで、人新世については(地球層序学という)ひとつの視座しか無かった。しかし、現実、つまりパウル・クルッツェンに直感をもたらした物理的、化学的、生物学的な次元において人新世を問うこともできる。これらは勿論、地質学的側面をもつ――即ち地球を構成するあらゆる次元で、たとえば「岩相層序学」にも「化学層序学」にも「生物層序学」にもなりうるわけだ。

 こうなると、ほとんど無限に存在するデータを処理することになってしまう――結局のところ、地球は巨大で複雑な現象なのだから。しかし、人新世のさまざまなパターンの多くは、驚くほど単純である。この新しい概念は微妙で捉えられないものではないし、たとえば海の変化の奥底に潜む潮流を調べる時に使うような洗練された統計解析も必要ない。嬉しくなるほど平易なのだ。

 わたしたちの惑星、わたしたちのグローバル・コモンズは、すでにこれまでとは違うものになっている。過去 10年の出来事のなかでも、以下のことは特筆すべきことだろう。

 2019 年、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム (IPBES) は、「100万種にのぼる生物が激減のリスクに直面しており、人類の生命維持装置の危機をもたらしている」と報告している。「生きている地球レポート 2020 」によると、2016年時点で野生の哺乳類や鳥類、魚類、爬虫類の総数は、1970年の 68%に落ち込んでいる。

 生命のネットワークが衰退することで、エボラウィルスやジカウィルス、新型コロナウィルスなどのように、日和見感染細菌(免疫機能が低下した人にのみ感染する病原性の弱い細菌)やウィルスが新種に変化しやすくなっている。

 反応性窒素量の生成・放出量は過去 15 年間だけでも大幅に増加しており、そのうち人類に起因するものが、稲妻や窒素固定細菌など天然由来の 7 倍に達している。反応性窒素は農地から三角州や海洋に流入して小さい国の面積に匹敵するほどの「デッド・ゾーン」となって植物プランクトンを壊滅させ、水中酸素を致命的に減らしている。

 人類は「地球上の凍っていない地表の 72%を活用して食糧や衣服を得て、地球上の人口増加を支え」、その数は、1c. 前の 19 億人から 2021 年初頭の時点で 78億人にまで増加している。耕作や採鉱、舗装、燃焼などは強力に、さらなる「土地の変容を、特に農地において進める、持続不可能なもの」だが、しかしそれでも人口増加している。飢餓に苦しむ人の数は 2019 年には 8 億 2000 万人となり、その後も年々増加し続けている。

 空気中の CO濃度は 80万年前以降のどの時点と比較しても高くなっている。気候変動は地球の平均気温を 1.5 ℃近く押し上げており、これは自律的なフィードバックの範囲を超えた危険値だ。2004 年~14年の 10年間の傾向がこのまま続くと、2036 年には平均気温の上昇 2.0 ℃に達してしまうのだ。

 社会への影響は、破壊的かつ不均一なものである。気温の上昇は暴力の増加・自殺率の上昇と関連する。生物学者のアンソニー・バルノスキーとエリザベス・ハドリーはこう述べている。「(地球温暖化の)速度をこのままにしていたら、この先 60年間の気温は過去 1500万年のどの値よりも高くなり」、元来、脆弱だった多くのコミュニティの平和を危険にさらし、移住を強いられる膨大な環境難民を生み出すことになる、と。

 またプラスチック繊維は、わたしたちが摂取するあらゆる食糧や水、空気に含まれており、妊娠している母親の胎盤からも見つかっている。空気中のプラスチック粒子は人間の認知能力を低下させ、世界の平均寿命を 2年下げ、「プラスチック粒子汚染は、結核やエイズなどの感染症や、タバコや戦争といった人間の行動による死亡以上に破滅的なものになる」。粒子吸入の危険性も、当然一様ではない。

 水中のPFAS(パーフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)など、「永遠に残る化学物質」をはじめとした毒素による環境ストレスは、特に北半球に住む人びとの健康に害をおよぼす。

 さrsに、地球はまだ安定化していない。地球システムは人類からの圧力の増加につれて変化を続け、そのリバウンドは人類の、なかでも特に脆弱な人びとにおよぶ。人新世は圧倒的かつ変幻自在の現象であり、科学的概念であり、そして現実の脅威なのである。

 

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