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2021年6月28日 (月)

人間と科学 第325回 植物と薬と人間(3) ③

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 植物は、着飾ったり香水をつけて自ら婚活パーティーに参加する代わりに、受粉をしてくれる昆虫を引きつけるために着飾ったり香水を用意するのである。

 この第2,第3の戦略に関わる成分は二次代謝産物で、それらに化学構造の多様性と特異的な生物活性を有しているという特徴がある。それは、例えば動物などの捕食者に対する防御作用という点から容易に想像できる。捕食動物の神経を興奮させるあるいは遮断するなどの強い薬理作用のためには特異的な化学構造が必要だろうし、多様な構造を有した化学物を用意しておいたほうが堅牢な化学防御となる。ここで大事な点は、植物二次代謝産物が有するこのような強い生物活性と多様な構造という特質は、薬の開発においても必要なものであるという点だ。

 こうして、動かない植物が発達させた生存戦略によって生み出された多様な二次代謝産物は、とりもなおさず薬や健康機能成分の源泉になりうるのである。

 一例として、現在臨床的に用いられている植物に由来する抗がん剤は4種類あるが、いずれもこれらの抗がん成分はがん細胞に限ったものではなく、通常の細胞の分裂も妨げる。つまり、これらの抗がん成分は、もともと植物が外敵からの防御のために作った細胞分裂を阻害する毒成分なのである。使い方次第で、毒は薬、薬は毒、という揺るがない真実が横たわっている。

 このような植物は、人間に恵みを与えようとしているわけではなく、自らの生き残り戦略のなかで多様な化学成分を作り出し、我々人間は、それらを少しだけ使わせてもらっているという真実が見えてくる。

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