« 人間と科学 第324回 植物と薬と人間(2) ② | トップページ | グローバル・コモンズの責任ある管理 ① »

2021年6月 3日 (木)

人間と科学 第324回 植物と薬と人間(2) ③

続き:

 2015年のノーベル生理学・医学賞は、寄生虫病に有効な 2つの天然化合物の発見に対して与えられた。これらの天然化合物の1つ目は日本人の大村智先生が放線菌から発見された抗寄生虫薬エバメクチンであり、2つ目は中国人の女性科学者・屠○○博士がクソニンジンという植物から発見した抗マラリア薬のアルテミシニンである。このアルテミシニンの発見は『肘後備急方』という中国本草の書物のたった一行の記載に基づくものであった。

 このように、植物は、それぞれの植物種やその上の分類群である属や科に特異的な二次代謝産物(あるいは特異的代謝産物)と呼ばれる化学成分を作る。これらの二次代謝産物は多様な化学構造を有し、その生物活性も多様なので、薬として使われることが多い。植物がつくる化学成分の数よりも圧倒的に多く、地球上の全植物種では100万種に及ぶと見積もられている。

 これらの多様な化学成分は多くの人の命を救い、ノーベル賞受賞にも輝く薬の開発にもつながるし、生薬や漢方薬あるいは健康機能食品成分としても私たちの日常生活にも役立っている。

 一方、糖やアミノ酸、脂質などの生命の維持に必須で、すべての植物種が生産する化学成分は一時代謝産物と呼ばれる。それに対して、特定の種や属にだけ特異的に含まれる植物二次代謝産物の役割は、近年まで必ずしも明確ではなかった。実際に、今から 46年前に私(斉藤)が大学生の時に受けた講義では、このような二次代謝産物は一時代謝経路から溢れ出た物質であるという解釈が主であり、必ずしもそれぞれの植物における生物学的な役割は明確ではなかった。

 この植物二次代謝産物の役割が明らかになってきたのは、植物における分子生物学やゲノム科学が進展した最近のことだ。

« 人間と科学 第324回 植物と薬と人間(2) ② | トップページ | グローバル・コモンズの責任ある管理 ① »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事