Clinical 高齢者のポリファーマシーと歯科薬物療法 ⑧
続き:
2) 現在の考え方 ~『抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版』に沿って~
前項の(1)~(3)について、現在のガイドラインの見解を以下に示す。
(1)について
● 複数剤による抗血小板薬投与患者に対して、薬剤継続下で抜歯を行うことをあまり推奨しない、とのガイドラインが出ている。
(2)について
● エビデンスが十分でない。薬剤継続下で抜歯を行い、局所止血で対応することが望ましいと考えられるが、対応が可能な医療機関に相談する等の慎重な対応が望ましい、とのガイドライン統括委員会の見解が出ている。
(3)について
● エビデンスが十分でない。抗血小板薬やワルファリン投与中の患者においては、NSAIDs 、COX-2 阻害剤、アセトアミノフェンの投与は最低必要に留めることが望ましい、とのガイドライン統括委員会の見解が出ている。COX-2 阻害剤、アセトアミノフェンは作用の強弱はあるものの、COX 阻害作用をもっており、それにより抗血小板作用を生じ、出血リスクを高める可能性がある。セレコキシブ、メロキシカム等の選択的 COX-2 阻害薬は NSAIDs 潰瘍発生のリスクの低減が期待できるため、特に消化性潰瘍の既往のある高齢者で NSAIDs を使用せざるを得ない場合にその使用を考えたらよい。
● アセトアミノフェンは NSAIDs には分類されないが、抗血小板作用が NSAIDs に比べて低く、高齢者に鎮痛薬を用いる場合の選択肢として考慮される。しかしながら、アセトアミノフェン投与により PT-INR 値が有意に上昇するとの結果もあり、冒頭のガイドライン統括委員会の見解となった。
高齢者の薬物療法は、生活、環境などを考慮したうえで一つ一つ解決していかなければならない。患者の服用薬を把握することがなによりも大事であることは言うまでもないが、それらの正確な把握は時に難しいこともある。患者本人や家族からの聴取とともに、お薬手帳を確認することが正確な処方薬の把握につながる。お薬手帳を病院ごとに分けている患者がいることや、院内処方のためお薬手帳に記録のない場合があることも注意する。また、一般用医薬品(例えばロートエキスなどは特に注意が必要)や健康食品と医療用医薬品の併用に関連した副作用も見逃せない問題であり、患者や家族などにも自覚を促し、これらの使用状況を把握しておくことは、安全性確保の面で重要である。
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