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2021年6月20日 (日)

人新世――新たな地質時代の科学と政治 ①

J・A・トーマス(米ノートルダム大学准教授)、M・ウィリアムズ(英レスター大学教授)、J・ザラシーヴィッチ(英レスター大学名誉教授)ら3人が研究論文を「世界 5」に上述している。コピーペー:

 「人新世」(The Anthropocene、アントロポセン。「人新世」や「人類性」とも訳される)とは、2000年に突如広まった新しい言葉である。

 その言葉が生まれた運命の日、ノーベル賞受賞受賞歴もある大気化学者パウル・クルッツェン(1933~2021)は苛立ちを抑えられずにいた。クルッツェンは、この惑星が抱える症状に関する会議のためにメキシコに来ていた。彼をいらだたせたのは、会議が終始、過去1万1700年にわたる安定した地質時代である完新世ばかりを参照していたことだった。しかし(会議が示す)様々な事実――森林破壊、大気と海洋における化学的性質の根本的な変化、加速するばかりの生物多様性の喪失、そしてその会議で示された気候変動――は、完新世の条件に当てはまらないのだ。

 完新世の安定した気候条件のおかげで人間の可能性は開花し、農耕や文字を発明し、都市をつくって地表を支配するようになった。だがクルッツェンは、人間の活動がもたらすとめどない変化が、ヒトの文明と他の生命の複雑なネットワークを支える地球環境の安定を脅かしていることに気付いていた。「完新世」という区分はもはや適用できない。そこでクルッツェンが即興で持ち出した言葉が「人新世」だった。それがどれほどの反響を生むか、本人も確たる予想はついていなかった。

 よく知られているように、人新世という言葉はほんの数年の間に多くの物事を触発してきた。今後は学術分野に限らず芸術や社会、政治などの広大な領域に波及するだろう。

 科学の分野で言えば、この概念はまずパウル・クルッツェンの地球システム科学(ESS)のコミュニティで生み出され、地質時代尺度(GTS)を研究する地質学のコミュニティに届き、その他の分野にも及んでいる。およそ10年かけて、人文科学や社会科学の分野にも火をつけた。ノルウェーの国際法学者ダヴォア・ヴィダスによると、Google検索での「人新世」のヒット数は、2009年夏の時点では64件(重複を除けば50件ほど)にすぎなかった。それが10年後には、450万件、2020年2月には650万件に達し、その数は、日々増え続けている。人新世は、地球が直面する新たな危機を三次元的に理解するための最も重要な概念となっているのである。

 この語は、「公害」や「気候変動」「地球温暖化」のような、環境破壊を示す用語とは異なる。ディープタイム(超長期的な時間スパン)と現在進行形の危機とを、そして科学的視点と人文学的視点とを統合し、20 c.半ばから人類が地球上で圧倒的かつ決定的な影響力をもつに至ったことを説明する概念なのだ。以下、人新世の科学と、新しい「グローバル・コモンズ」を制御するための道筋について考察する。

 

 

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