« グローバル・コモンズの責任ある管理 ③ | トップページ | グローバル・コモンズの責任ある管理 ④ B »

2021年6月 7日 (月)

グローバル・コモンズの責任ある管理 ④ A

続き:

4 新たなメカニズムの創設

 人新世という新時代において、安定的な地球環境、すなわちグローバル・コモンズを、責任をもって管理し次世代に渡していくためには、ガバナンスを含む新たな仕組みを作っていく必要がある。しかもその構築のために残された時間は少ないのだ。

 この大作業には、次の三つの作業が必要だ。第一に「枠組み作り(フレーミング)」、第二に「道具立て」、第三に「実践のための工夫」だ。

● 枠組み作り

 第一の「枠組み作り」から見ると。これは、グローバル・コモンズの管理責任というコンセプト作りとその共有である。先に紹介したように、ローカルなコモンズは、あえて外から論されなくても、コモンズを守る必要をコミュニティが自分事として認識、そのためのルールも熟知していた。守らなかった時の結果も罰則も理解されていた。グローバル・コモンズの場合、こうした基盤をどのように作っていくべきか。そのベースにある科学のメッセージ――あと10年で大規模な転換が起こらなければ地球と人類の未来は危うくなる――をいかに伝えるか、安定的な地球を守ることは構成員全員の利益であることをいかに得心してもらうのか、そしてそれを「他人事」ではなく「自分事」として捉えるようになれるか。つまり、ローカル・コモンズを守ってきたコミュニティのように、いかにして我々の中で、グローバル・コモンズを守るコミュニティとその規範を作るかである。まず、人々の行動規範や価値観の変化が必要だ。企業が、投資家が、消費者が、グローバル・コモンズを守るために行動を変えることが重要。養育も重要であろうし、デジタリゼーションが行動変容を加速する可能性もある。科学のメッセージをわかりやすく伝えるコミュニケーション、共感を呼ぶナラティブ、帰属意識を醸成する仕組みが必要。

 さらに、世界的な協調体制の構築が不可欠である。コモンズは、お互いが顔見知りのローカル・コミュニティでは守られてきたが、グローバルにそれを守る仕組みは十分に機能していない。アメリカ大統領選後も地政学的確執は続いており、国際協調の難しさが顕著だ。グローバル・サウスとグローバル・ノースが一堂に会して、グローバル・コモンズの管理に共同であたる体制を作れるかどうかが鍵である。

道具立て

 第二にローカル・コモンズでは必ずしも必要なかった幾つかの「道具」が必要となる。その一つが経路分析で、もう一つが進歩の計測のための指標作りだ。

 まず経路分析とは。ローカル・コモンズでは、守るべき対象のコモンズと、コミュニティのアクションの間にわかりやすい関連があり、それをコミュニティの構成員が熟知していた。グローバル・コモンズは、対象となる地球システムと我々の経済システムとの関連が複雑であり、自分のアクションの結果を端的に理解することが難しい。アクションの結果がわかるまでにかかる時間も、ローカル・コモンズの場合は翌年の収穫への影響など比較的短期に可視化されるが、グローバル・コモンズの場合はそれが長期になる。

 こうした違いがあるため、グローバル・コモンズについては、今世紀半ばまでに持続可能な経済社会を、プラネタリー・バウンダリーの枠内で築くために、どのような経済システム転換が必要かという経路分析が有用である。

 この経路分析は、エネルギー分野だけでなく、他の基本的な経済システム、すなわち食料システム、都市システム、生産消費の在り方と、その相互関連を考える必要がある。具体的には、エネルギー分野の脱炭素化を早急に進めること、そのためには、電力・熱源としての化石燃料からの脱却を進めるだけでなく、産業、移動、民生など経済社会全体においても脱炭素化を進めること、エネルギー需要そのものをどう減らすかも鍵だ。食料システムの環境負荷をどう減らすか、都市をどのように作って機能させていくかも重要である。

 こうしたシステム転換を政策によってどのようにバックアップしていくのか、またその中期的な経済コスト、社会的なコストを示す必要がある。2050年までに脱炭素を達成するためにすでに多くの経済分析がされている。イギリスの気候変動委員会 (Climate Change Committee ) の試算は、脱炭素のための当初のインフラ投資がその後の操業経費の節約で償われることから、経済全体でみるコストはGDPの 0.5%~ 1%程度と管理可能な範囲であると分析している。

 こうした分析を踏まえたナラティブを明白にすることも重要。それは「 2050年にプラネタリー・バウンダリーの枠内で持続可能な経済社会を創ることは、①我々と地球の未来にとって絶対に必要なだけでなく、②技術的・経済的に可能で、③我々にとってより好ましい未来がやってくる」というメッセージである。

 一方で、こうした大きな変革が、社会的なひずみや分断を増幅させるという懸念がある。変革の経路を描くとき、その移行を公平で秩序だったものにすることが極めて重要。グローバル・コモンズは、待ったなしの状況である地球システムの機能に着目した概念で、必ずしも社会的な要素を正面から捉えたものではない。

 しかしながら、グローバル・コモンズの毀損は社会的な分断を悪化させること、そして、グローバル・コモンズを守るためには、社会の分断に取り組むこと、移行の公正が必須であることを深く認識する必要がある。

 

« グローバル・コモンズの責任ある管理 ③ | トップページ | グローバル・コモンズの責任ある管理 ④ B »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事