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2021年7月12日 (月)

Science 幹細胞を用いた歯周組織再生治療の可能性について ⑥

続き:

5. 幹細胞移植による歯周組織再生メカニズム

 幹細胞移植による再生治療では、移植した細胞が局所へ定着し、そこで増殖し、さらに細胞がその場を認識し適切な細胞へ分化し、新しい組織を形成するというシナリオが想定されている場合が多い。前に紹介した我々の研究においても、歯根膜幹細胞を移植細胞として選択した最大の理由は、セメント芽細胞へ分化する能力を持っているという点であった。

 そこで、歯根膜幹細胞移植による歯周組織再生のメカニズムを確認する目的で、移植された幹細胞が再生した歯周組織のどこに存在するのかについての検討を行った。この実験では、移植前に歯根膜幹細胞の細胞膜を赤い蛍光色素を用いてラベルし、移植後の組織切片内でそのラベルの確認を行った。その結果、細胞移植から4週間後の組織内において、蛍光シグナルは確認できるものの、局在は再生組織の非常に限られた部位のみにとどまっていた。この蛍光ラベルは、旺盛な細胞増殖があると細胞分裂のたびに蛍光強度が希釈・減弱する可能性が考えられた。

 我々の細胞移植は、ヒトの細胞を免疫不全ラットへ移植する系を採っていたため、次に、細胞移植後に経時的に歯周組織を回収し、再生過程にある組織中でヒト特異的な遺伝子が増加するかどうかについて検討を行った。

 細胞移植を行った後、3日、7日、28日と時間を経て回収された試料中のヒト特異的遺伝子の発現を検討したところ、遺伝子発現は 3日後で最も高く、7日、28日後においては増強されず、むしろ減少する結果が得られた。

 この結果は、先のラベルによる実験結果とほぼ一致するものであり、移植した歯根膜幹細胞の歯周組織欠損内への定着・増殖が予想ほど多くないことを示唆している。ここで移植された細胞の定着が多くないにもかかわらず、組織の再生が起こるメカニズムの存在が考えられた。

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