« コンピュータシステムがもたらした冤罪事件 ⑤ | トップページ | 祝賀資本主義のグロテスクな象徴 ① »

2021年7月29日 (木)

コンピュータシステムがもたらした冤罪事件 ⑥

続き:

   残る課題

 公社によると、過去20年間に約1000人の委託局長が誤って起訴されてきた。その波紋は大きく、新型コロナウィルス感染拡大中の2020年6月に、議会で遠隔聴聞が実施された。これを受けて英国政府はホライズン事件の調査委員会を立ち上げると発表し、2020年11月には関係する証拠や情報の提供が呼びかけられた。しかし、政府内に設けられる予定のこの委員会は独立性が担保されていないだけでなく、証拠提出命令の権限もないため批判が高まっている。

 冒頭で紹介した賠償判決を言い渡した際、フレイザー判事は、関係証拠を検察庁に送付することや富士通サービスの責任が今後問題になるだろうと述べた。検察庁は、局長らが有罪とされた裁判において、「システムに問題はない」と証言した公社社員を偽証罪で起訴するかどうか検討すること報じられている。また、元局長らの再審公判では、公社社員が、「元局長らにとって有利な書類をシュレッダーにかけるよう命じられた」とも証言している。誤った告訴をして冤罪を生み出した上、システムの安全性について責任を負うことなく、都合の悪い証拠の隠滅にまで手を染めていた公判の責任は重い。しかし、現在まで、公社社員の誰ひとりとして法的責任を問われてはいない。

 公社は今回の誤判事件に遺憾の意を表明し、賠償に関するスキームを構築すると公式に発表した。しかし、現在に至るまで個々の冤罪被害者に対する謝罪と賠償は行なわれていない。また、ホライズンによる冤罪が生まれた当時の公社CEOポーラ・ヴェネルズ氏は、7年間の在職中に総額40万ポンド(約6000万円)の給与を受け取ったとされている。ヴェネルズ氏は、その後、Imperial College Healthcare NHS Trust という国民保健サービスの会長に就任したが、元局長らに再審無罪判決が出た2020年の12月になって辞任した。BBC放送のドキュメンタリー番組「パノラマ」は、公社がシステム・エラーの事実を知りながら公表せず、その後もエラーに関する調査報告書を隠蔽していた点についてヴェネルズ氏に取材を試みたが、説明は拒絶された。

 2021年2月、議会でホライズン事件について問われたボリス・ジョンソン首相は「強い関心を抱いている」「しかるべき人物が、起きたことに責任を負うよう我々は求めているし、公社は決してこのような過ちを繰り返してならない」と語った。

 驚くべきことに、全英各地の郵便局ではいまだにホライズンが使い続けられている。しかし、開発側の富士通サービスがこれまで公式にその法的責任について言及したことはなく、冤罪被害者となった元局長らやその家族に対する謝罪もなされていない。公社には今後、元局長らの訴訟費用の支払いや莫大な保障負担がかかることが見込まれ、経営悪化は避けられないとみられている。

 英国史上において最大規模と言われる冤罪事件の原因究明や責任追及は、まだ始まったばかりである。

« コンピュータシステムがもたらした冤罪事件 ⑤ | トップページ | 祝賀資本主義のグロテスクな象徴 ① »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事