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2021年7月25日 (日)

コンピュータシステムがもたらした冤罪事件 ②

続き:

   ホライズン・システム

 ホライズンとは、英国郵便公社の全郵便局に導入された勘定支払い用のオンライン会計システムの名称であり、富士通サービス株式会社によって運用提供がなされている。このシステムでは、郵便局に来た顧客のサービス利用を「バスケット方式」で取り扱う。即ち、顧客は、切手等の購入や口座からの出金と合わせて、公社のサービスとは無関係に郵便局内で売られている文房具等を購入した際に、その代金も一括で支払うことができる。富士通サービスは運用提供のみならず、郵便局の業務支援のためヘルプデスクも構築し、サポート要員も400名抱えていた。

 フレイザー判事は、コンピュータ技術の専門家証人の証言や有罪判決当時には開示されていなかった内部文書、報告書などの膨大な証拠に基づいて下した判決において、不正経理はなく、局長らにとって詐欺や窃盗の容疑はまったくの濡れ衣であって、不足エラーは会計システムであるホライズンの側に起因すると結論づけた。さらに、「郵便局の決済にミスが生じた場合、その責任については郵便局長に過失あるいは過誤があった場合に限る」という契約条項があったにもかかわらず、これを無視して公社が厳格な責任(無過失責任)を主張して局長らに賠償を求めていた点についても、これを非難した。

 また、開発提供元の富士通サービス側にも多くの責任があったことも指摘された。勘定ミスの原因として同社側が認めたホライズンのバグは 29 か所にすぎなかったが、判決は、その10倍にも及ぶ数のバグがエラーに関係していたと認定したのである。これに関して、裁判所は、富士通サービス側は遅くとも2006年2月にはシステムにバグが存在しており、そのバグが郵便局の決算に影響を与える可能性を認識していたとした。

 公社側と富士通サービスが十分な情報や証拠を刑事裁判に提供しなかったことが、今回の大量誤判の原因となったことは疑いがない。

 

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