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2021年7月11日 (日)

Science 幹細胞を用いた歯周組織再生治療の可能性について ⑤

続き:

4. 間葉系幹細胞を用いた歯周組織再生

 生体組織を形作るのは間違いなく細胞であることから、歯周病の進行で失われた組織を新たに再生させる目的において、その能力を持つと考えられる細胞を体外で培養・増殖し、数を増やした後に歯周炎局所へ投与・移植する治療は、非常に理にかなった野心的な方法と考えられる。2000年代に入ってから、培養した間葉系幹細胞を実験動物に作成した歯周組織欠損内へ移植し、歯周組織の再生を観察する研究が行われるようになった。一例として、我々の研究グループが行った細胞移植による歯周組織再生についての一連の研究を解説したい。

 我々は移植細胞として、歯根膜から培養される間葉系幹細胞を選択した。この歯根膜由来の間葉系幹細胞は、過去の報告においてセメント質ー歯根膜様組織を形成することが示されており、歯根膜における組織幹細胞と目される細胞であることから、歯周組織に定着すれば、より効率的で歯周組織の再生が期待できると考えたからである。また、細胞の移植方法が細胞移植の結果を左右する大きな要因として知られているが、我々は羊膜を細胞移植担体として用いた。羊膜は胎児と羊水を保持する生体膜であるが、非常にしなやかで適度の伸縮性を持ちながら十分な物理的強度と生体吸収性を持つ、という優秀な移植担体としての特徴を備えている。この羊膜を、超高圧を用いて脱細胞処理し細胞成分を除去した後、さらにこの上へ培養した歯根膜幹細胞をシート状に配列し、移植用の材料を作成した。この細胞の配列には、「細胞転写技術」と呼ぶ組織工学的な技術を用いている。

 誌面の関係で詳細は割愛するが、近年、細胞を三次元的に自在に配置する技術が開発され、細胞移植との組み合わせで再生医療に貢献している。この羊膜を担体とした歯根膜幹細胞シートは、欠損の大きさに合わせて簡単にトリミングすることや、上に乗る細胞が脱落することもなく膜の自在な変形が可能であるというユニークな特徴を持っている。歯周組織のような、場合によって小さく複雑な解剖学的形態を持つ欠損や、露出歯根面への確実な細胞移植を可能にする、優れた細胞移植方法である。

 我々はこの羊膜担体を用いて、ラットに外科的に作成した歯周組織欠損へ培養した歯根膜幹細胞を移植する検討を行った。上顎臼歯の分岐部および、下顎臼歯の頬側へ歯周組織欠損を作成し、丁度、絆創膏を貼るような要領で、露出した歯根象牙質表面へ歯根膜幹細胞が接触するように移植した。4週間の治癒期間の後、マイクロ CT を撮影し組織再生を評価したところ、上顎の欠損では分岐部欠損の深さが細胞移植によって浅くなり、下顎の欠損では歯槽骨のレベルが高くなる結果が得られた。また組織学的な検討を行ったところ、二つのモデルの両方において、新たなセメント質、歯根膜、歯槽骨の形成が歯根膜幹細胞移植によって認められており、本方法が歯周組織再生を誘導することが示唆された。

 我々の研究では、移植細胞として歯根膜幹細胞を用いたが、他の研究では骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、歯髄幹細胞、歯肉由来間葉系幹細胞、骨膜由来細胞など、由来の異なる多種の細胞が移植実験に用いられており、いずれも歯周組織再生をもたらす結果が報告されている。どの細胞種が最も有効であるかについては、いまだコンセンサスはない状態であり、細胞の種類を比較検討した研究は殆ど無い。Tsumannumaらは 2011年に、イヌの骨欠損モデルへ歯根膜細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、骨膜由来細胞を移植し、歯周組織を検討した。その結果、歯槽骨の形成や上皮の深部増殖の程度に差は見られないものの、セメント質の形成量(厚さ)において歯根膜由来の細胞の移植が多い傾向にあることが示された。

 

 

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