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2021年8月17日 (火)

スマホとデジタル全体主義 ③

続き:

巫女AIが告げる未来

 ユヴァル・ノア・ハラリは『ホモ・デウス』のなかで、スマホやウェアラブル装置に蓄積されたデータベースの履歴に基づいて「最適解」を導き出してくる人工知能を「巫女AI」と呼び表している。かって人々が巫女を通じて神のお告げを聞いたように、現代人はAIを通じて真理の言葉を聞くようになるだろうというのである。

 「私たちの多くは、自分の意思決定の過程をそのようなシステムに喜んで委ねるのではないか。あるいは、重要な選択に直面したときにはいつも相談ぐらいはするだろう。グーグルは、どの映画を観たり、バカンスにどこへ行ったり、大学で何を学んだり、どの仕事の申し出を受けたりするべきかや、誰とデートして結婚したりするべきかさえも、助言するようになる」(ハラリ 2018:171p)。

 そして21c.には、そのような助言の元となる個人データこそが「人間が提供できる最も貴重な資源」となり、「私たちはそれを電子メールのサービスや面白おかしいネコの動画と引き換えに、巨大なテクノロジー企業に差し出しているのだ」(176p)。

 ハラリはこうした近未来を予想しながら、それが近代の「人間主義」からポスト近代の「データ主義」への大転換をもたらすものになるだろうという大胆な予言を行なっている。それにともなって、(1)人間こそが社会の中心であり、(2)人間は自らのことを最もよく知っており、(3)自らの人生は自らの意思によって決定すべきだ、という近代の前提が崩れることになる。それに代わって、(1)データと人工知能こそが社会の中心であり、(2)データと人工知能のほうが本人や知人よりもその人のことをよく分かっており、(3)人生の最適解をデータと人工知能が導き出してくれる、という状況が到来する、とされる。

 従来であれば、各人がそれぞれの人生を賭けて未来に向けた決断を行なっていたところを、これからの時代は人工知能とビッグデータがその判断を代替してくれることになるかもしれない。何故なら近未来にはもはや、人間よりも機械のほうがあなたのことをよく知っている、という事態が生じてくると予想されるからだ。例えば、あなたがA社に就職したいと考えていても、データベースにもとづく統計的・確率的分析によれば、B社に就職するほうがその後の人生の満足度が高くなる可能性がC%高い、といった「神託」を人工知能が行なうようになる可能性は高い。そこでは人間が自らの人生の決定者であるといういう人間主義および自由主義の理想は崩れ、さらには自由意志の観念さえもが疑われることになるだろう。

 勿論、すべての人が人生のあらゆる選択を人工知能に委ねるということにはならないだろう。どれほどデジタル技術が発達しても、人間が未来に向けて決断し選択する余地はどこまでいっても残るはずだ。ただし多くの人間は「重要な選択に直面したときにはいつも[人工知能とデータベースに]相談ぐらいはする」ようになるという予想はその通りかもしれない。その助言はあくまで確率論的な最適解を示すものであって、100%正しいという保証はないのだが、その精度が上がれば上がるほど、われわれはその「神託」を無視しがたくなるにではないか。

 

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