カーボンプライシング ④
続き:
4 カーボンプライシングに期待される効果
では、カーボンプライシングの導入に何が期待されるのだろうか。期待される効果は主に5つ考えられる。
1. 化石燃料の低炭素化が進むこと。同じ化石燃料でも、天然ガスの炭素含有量は石炭の約半分。そのため、カーボンプライシングが導入されると石炭の価格上昇は大きく、天然ガスへの価格上昇は控え目になる。つまり、石炭から天然ガスへ燃料転換が期待される。実際、欧州や米国北東部では排出量取引導入の後、天然ガスの発電が増えている。
2. 省エネの促進。カーボンプライシングが導入されると、その価格分だけ電気代や燃料代が上昇する。それで、企業や個人に、エネルギー消費を減らそうというインセンティブが発生する。こまめに電気を消すことや、過度な冷暖房の温度設定を避けるといった行動変容が期待できる。さらに、省エネ型の設備を導入しようというインセンティブも期待できる。家庭では省エネ型の冷蔵庫・エアコンに買い替えが進むだろう。また、蛍光灯に比べて値段の高い LED を買おうというインセンティブにも繋がる。実際、東京都にある事業所では排出量取引導入以降、LED や省エネ機能の高い導入が大幅に促進された。
3. 再生可能エネルギーの普及がある。化石燃料を使った電源の価格が上昇するので、太陽光や風力発電の競争力が相対的に上昇する。そのため、再エネの普及がより一層進むと期待できる。紹介した米国北東部のRGGIでは、導入後、再生可能エネルギーが増えたことが指摘されている。また、イギリスでは、カーボンプライスフロアという最低炭素価格を導入することにより、再エネが急速に普及しているといわれている。
4. カーボンプライシングはイノベーションを促進すると期待されている。例えば欧州では、排出量取引がイノベーションに与えた影響を検証した報告も行なわれている。EUETSが2005年から 2009年にもたらしたイノベーション効果を、特許注目して分析を行なった結果、排出量取引に直面する企業で低炭素技術に関する特許申請が、そうでない企業に比べて 10%以上も大きいということが明らかになった。カーボンプライシングがイノベーションに繋がる可能性を示したのである。
5, 産業育成の効果である。世界が脱炭素に動く中、脱炭素に貢献できる企業にはビジネスチャンスが世界中で広がっていく。日本国内でカーボンプライシングを導入すれば、炭素の価格を前提としたビジネスが生まれ、産業として成長できることが期待できるだろう。たとえば、ZEN(Zero Energy Building) などがある。これらは、省エネや再エネを組みあわせて二酸化炭素の排出を実質ゼロにする建物だ。これらを建築する技術が一般化すれば、成長への貢献が期待される。
さらに、その他の産業育成も期待される。近年注目されているカーボンリサイクルや水素も、脱炭素に貢献できるので、大きなビジネスに繋がることが期待される。カーボンリサイクルとは、二酸化炭素が排出されるときに、そこで回収し、その後、化学品や液体燃料、コンクリート等として再利用するというものである。二酸化炭素を空気中に排出しなくなるので、排出削減に貢献できる技術と言える。しかし、これらの技術は実現しても、最初は費用が高い。既存製品との価格競争で勝てるようになるには、時間がかかると考えられる。しかし、二酸化炭素を排出する既存製品がカーボンプライシングによって上昇すれば、カーボンリサイクル製品の価格競争力が増し、普及が早まる。また、それを見込んだ企業のイノベーションの取り組みも加速化されるであろう。
水素についても同様だ。日本の脱炭素戦略では水素の価格を現在の1/10にすることがうたわれている。高価格が水素普及の一つのネックだ。しかし、既存燃料の価格がカーボンプライシングによって上昇すれば、相対的に水素の魅力が増し、その普及時期が早まると考えられる。このように、カーボンプライシングは、新しい脱炭素のための技術・イノベーションの普及、そしてその開発に大きく貢献できるのである。
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