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2021年8月24日 (火)

カーボンプライシング ⑤

続き:

5 負担増をどう考えるか

 このように、社会全体の排出削減の費用を抑制でき、新たな産業の育成にも期待できるカーボンプライシングではあるが、個々の家計や企業にとっては、短期的には費用増をもたらすかもしれない。しかし、脱炭素の回避に取り組まなければ、気候変動がもたらす被害が、将来の大きな負担として人類に降りかかることになる。そのため、短期的にはコストが増大しても、脱炭素に取り組むべきだ、というのが現在の世界のコンセンサスとなっている。

 カーボンプライシングを使わなければ、たしかにその分の費用は発生しない。だが、脱炭素に向けた(あるいは気候変動による大きな被害を回避するための)費用は、最終的には我々が支払わないといけない。つまり、生産者である企業が支払う脱炭素のための費用は、巡り巡って、何らかの形で消費者も負担することになる。だが、カーボンプライシングは、社会全体の費用抑制効果がある。つまり、カーボンプライシングを導入しないほうが、最終的な企業や消費者の負担は増えるのである。

 産業界からは、炭素税や排出量取引ではなく、脱炭素に向けた取り組みのためのインセンティブ、補助金を用意してほしいという声もある。実際、菅政権は、2兆円という予算を一般財源から捻出した。しかし、これも将来的には我々国民や企業が税金として支払わなければならないお金。従って、当座のカーボンプライシングの負担を回避する、ということは、換言すれば、将来の増税の負担を先延ばししている、いうことに他ならない。これは、現在世代から将来世代は負担を転嫁するものである。既に日本は借金大国であり、将来世代の負担が大きい。いまカーボンプライシングを導入しないことは、世代間の不公平をさらに広げることになる。

 このように、長期的に見ると、カーボンプライシングの費用負担は大きな問題ではないと考えられる。しかし、短期的な費用負担が発生するのも事実だ。これに対しては、家計にも企業にも様々な対策が考えられており、各国で実施されてきている。

 家計をみると、炭素税導入の結果として、電気代やガス代、寒冷地なら灯油代が上昇するだろう。まず、この段階で再エネ由来の電気を使えば電気代の上昇は避けられる。ガス代や灯油代の上昇の負担が大きい低所得世帯には、炭素税の税収を家計に還元することも考えられる。実際、カナダのブリティッシュコロンビア州ではそのような税制が実施。また、米国の共和党の重鎮や経済学者はCarbon Dividend' 「炭素の配当」を提案している。これは、炭素税の導入と同時にその税収を国民に均等に還元する(配当する)ということだ。「炭素の配当」を実施すれば、低所得者の負担は緩和できる。

 企業についても様々な措置が考えられる。排出削減のインセンティブを持ってもらうのがカーボンプライシングであるが、鉄鋼のようなエネルギー集約産業では費用負担が大きく、利潤がなくなるかもしれない。そこで、多くの排出量取引では、エネルギー集約産業に対して排出枠を無償配分することで、企業負担を大きく抑制している。筆者(有村)も、2010年度に民主党政権下で排出量取引制度を環境省の審議会で議論した際、どのような業種に減免措置を導入すべきか、試算結果を提供した。実際、EUETSを始め、多くの排出量取引制度では、導入時には無償配分で制度を開始することが多い。炭素税が導入される場合にも減免措置の導入によって費用負担を抑制することが考えられる。実際、現状の地球温暖化対策税でも、エネルギー集約産業には減免措置が実施されている。

 

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