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2021年8月27日 (金)

カーボンプライシング ⑧

続き:

7 どのようなカーボンプライシングが導入されるか?

■ 炭素税によるポリシーミックス

 それでは、カーボンプライシングが導入されるとなると、どのような制度になるだろうか。環境省の審議会では炭素税を支持する専門家が多い。筆者(有村)も、国が主導権を握るのであれば、炭素税となる可能性が高い。なぜなら、炭素税の場合、税収が発生し、その税収を脱炭素技術の普及や研究開発支援につかえるから。これは、現行の地球温暖化対策税でも使われているスキームである。税と補助金を交えたこの制度は、ポリシーミックスと考えられ、2012年以降の排出削減に貢献してきた。これの特徴は、税額をそこまで高くしなくても補助金効果で大幅な削減が可能になること。ただ、2050年の脱炭素に向けた社会変革となると、現行の税率や税収では不十分であり、さらにスケールアップする必要がある。

 もう一つ、炭素税が有力だと思う理由は、脱炭素迄の残された時間があまりないということ。2050年の脱炭素、というと、あと30年近くあるように思うが、我々はいますぐの行動を求められている。例、火力発電所などはいったん建設されると、30年は使う。つまり、いま作られるエネルギーシステムが2050年でも残るのである。そのため、政策はすぐに導入される必要があるのだ。そうなると、政策としてすぐ実行可能な制度が必要。この点で、排出量取引制度は炭素税に比べて分が悪い。炭素税なら、現行の地球温暖化対策税のように、石油石炭税の枠組みを使って税率だけ変更すればよいので、導入までのハードルが低い。

 また、規制対象となる製造業の関係者には心理的なハードルもあるようだ。排出量取引制度は、支出枠を証券のように金融商品として取引する制度。日本の製造業、そして政策議論の参加者には、バブルの失敗からの嫌悪感、金融商品への恐怖心もあるようだ。そのことも排出量取引より環境税支持者が多いことの裏側にあるように思う。

■ 環境税制改革――炭素税の二重の配当

 このように炭素税が導入されるならば、技術開発などに用いられる、いわゆる目的税として考えるのが日本での一般的な考え方だ。しかし、脱炭素に向けて炭素税を長期に導入するとなると、税収、税率とも大きくなることが予想される。そうなってくると、目的税としてだけではなく、税収を経済活性化に使うという考え方もある。具体的には、炭素税収を法人税や消費税減税に用い、経済の脱炭素化に加えて、経済活動の活性化に繋げる。特に、排出削減と経済成長が両立できる場合を、二重の配当と呼ぶ。

 有本は、京都産業大学の武田史郎教授と、2050年に炭素を80%削減するための炭素税を導入した場合に、その税収をシミュレーションした。研究では、税収を家計に一括還元する場合、法人税減税に用いる場合、消費税減税、所得税減税に用いる場合を比較した。結果、法人税減税では2030年のGDPが1%近く改善することが示唆された。また、消費税減税でも排出削減とGDPの成長を両立する可能性が示唆された。このように、中期的には、炭素税収を一般財源として既存税金の減税に用いれば、排出削減と経済成長の両立が可能になるのである。

■ 地方自治体の連携の可能性

 国の議論が進めば炭素税が導入される可能性が高いが、もう一つの考え方として、地方主導で排出量取引を導入する場合もあり得る。実は、東京都は2010年から、埼玉県は2011年から排出量取引を導入している。2014年までに、東京都は25%の削減、埼玉県は22%の削減に成功している。排出量取引は制度が複雑で難しいと書いたが、すでに地方自治体による成功例がある。確かに、最初に制度設計をするのは容易ではない。この点、東京都は大変な努力でこれを実現した。埼玉県は東京都のノウハウを活用して、連携しながら導入・運用に成功している。従って、その他の道府県がこの成功例を活用し、連携しながら、各地で排出量取引を導入する、という可能性も考えられるのではないだろうか。特に、地球温暖化対策法が改定され、自治体の役割が大きくなってきている今、このような可能性も検討すべきではないだろうか。

 カーボンプライシングは脱炭素に向けて必須の政策手段であると考える。カーボンプライシングを避けるとかえって国民の負担が増え、かつ、グローバルな国際競争の中で、ビジネスチャンスを失うことになるだろう。そして、気候変動対策の議論だけでなく、国際社会全般における日本の地位の低下を招くことになるのではないかと危惧する。もはや、導入するか否かではなく、いつどのように導入するのか、早急に制度設計にとりかかるべきだ。

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