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2021年8月25日 (水)

カーボンプライシング ⑥

続き:

6 カーボンプライシングの賛否

 カーボンプライシングの導入に関しては、国内では賛否両論の状況である。気候変動問題に取り組む企業のグループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)のように、賛成、あるいは受け入れる企業も多い。世界では、脱炭素に向けた大きなビジネスの変革が起きている。アップルは再エネ電力をつかわずに作られた製品などは購入しない。と宣言している。そのため、日本の多くの企業が、自らが使う電力を再生可能エネルギー由来のものにしたいと考えているが、日本に十分な量の再エネ電力があるのかどうか、不安に思う企業も多い。これらの企業は、再エネ電力を促進するカーボンプライシングを支持する傾向にある。また、ZEHやZEBに貢献できる建築業界は、大きなビジネスチャンスとして捉え、カーボンプライシングを支持する傾向にあると考えられる。このほか、SDGsの視点から脱炭素を支持し、そのための政策手段としてカーボンプライシングを支持する企業もある。

 一方で、鉄鋼や化学などのエネルギー集約型産業はカーボンプライシングに反対の立場を表明。日本経済団体連合会も同様だ。電気事業連合会もカーボンプライシングに反対する旨を、環境省の審議会や経済産業省の検討会で発言している。

 ただ、反対理由には合理性を欠くように思うこともある。かって経団連は、環境省での公開のヒアリングで、炭素税の反対理由として、(高所得者に比べて低所得世帯負担の割合が高くなる)逆進性があるから反対だと言っていた。しかし、同じく逆進性のある消費税には賛成していたのだ。この矛盾点を指摘されてからは、この反論を示さなくなった。また、逆進性の問題には、先で提示した炭素税の配当によって低所得者への負担緩和策を用意すればよい。

 また、カーボンプライシングの負担は利潤を減らすとしている。しかし、排出量取引の方式をとり、排出枠を無償配分すれば、事業者には負担にならない。実際、EUETSでは鉄鋼業界へ排出枠の無償配分を受け、その量は自らの排出量を上回っていることを、鉄鋼連盟自ら検討会で資料として提出。また、炭素税にしても排出量取引制度にしても、エネルギー集約産業には過度の負担がいかないよう減免措置をとることも可能で、多くの国の制度でじっしされている。日本でも、石油危機を受けてエネルギー安全保障の観点から導入された石油石炭税では、エネルギー集約産業が減免措置を受けている。また、固定価格買取制度では、家計を含めて、電力の需要家は再生可能エネルギー導入の費用負担する。この制度でも、電力の大量消費の事業所は減免措置を受けている。つまり、日本でもエネルギー集約産業の負担減免制度は機能しており、カーボンプライシングでも同様のことが実施可能。環境省の審議会でのカーボンプライシングに賛同しているほとんどの委員が減免措置を支持している。

 こうなると、カーボンプライシングに反対する理由は必ずしも明確ではない。一つ考えられるのは、排出量取引や炭素税は欧州では活用されている制度で、欧州の政策の押し付けだ、という見方なのである。かって、品質管理に自信のある日本企業の中には、ISO9000という品質管理の国際認証を取ず、輸出で苦労したケースもあった。欧米の基準の押し付けという印象をもったようだ。また、欧州委員会がすすめた化学物質規制のREACHなど、日本企業が影響を受けた例は複数ある。実際、審議会で排出量取引に反対する際、他の国ではなく、欧州のEUETSを取り上げ、その問題点を指摘している。

 しかし、排出量取引等のカーボンプライシングを欧州の押し付けと考えるのは誤解ではないか。カーボンプライシングは市場メカニズムを活用した低炭素、脱炭素への政策手段である。すでに中国でも2013年から7つの試行的な排出量取引制度が導入されており、2021年には電力部門で全国制度として展開している。今後は、鉄鋼業界などエネルギー集約産業でも排出量取引の全国制度を導入していく予定。さらに、お隣の韓国は2015年から国全体で排出量取引制度を導入。このように、排出量取引は欧米独自の制度ではない。さらに、インドネシア、ベトナム、タイでは、排出量取引制度の導入時期が具体的に議論されている。もし脱炭素に向けたカーボンプライシング導入しなければ、日本は環境政策後進国になるのではないか。そんな危惧を抱く。そして、そのことが日本の産業の脱炭素のビジネスチャンスの芽を潰すのではないかと心配している。

 なお、エネルギー集約産業にもカーボンプライシングでビジネスチャンスが生まれる可能性はある。排出枠を無償配分された場合、脱炭素に精力的に取り組めば、余剰排出枠を売却できるから。

 また、税制ではないが、汚染に対する賦課金として、日本は先駆的な事例を持っている。大気汚染対策として、1973年に成立した公害健康被害者保障法だ。この法律では、大気汚染の健康被害の補償費用のため、汚染物質である二酸化硫黄の排出量に応じて賦課金を掛けた。結果、賦課金は環境税のように機能、脱硫装置の設置が進み、排出削減に繋がったと言われている。筆者(有村)が1990年代に米国で環境経済学を勉強していた時には、世界最初の環境税の事例として教科書に紹介されていた。

 

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