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2021年8月21日 (土)

カーボンプライシング ②

続き:

2 カーボンプライシングの意義

 では、なぜ二酸化炭素に値段をつけるのだろうか。カーボンプライシングにはどのような意義があるのだろうか。

 一つ目の意義は、環境問題の原因物質に価格をつけて市場の中に取り入れば、市場が問題を解決できる、ということである。市場の外にあることが問題なので、市場の中に取り入れて原因物質を減らそうというのが経済学の考え方。既に20c.前半、イギリスの経済学者ピグーは、公害問題の解決のため、汚染行為に税金を課す「ピグー税」を提案している。カーボンプライシングは、この考え方を気候変動の問題に応用したものと考えることができる。気候変動に場合で言えば、我々は望ましい水準を超えて、二酸化炭素を排出し、地球温暖化をはじめ、様々な被害を起こしつつある。そのため、原因である炭素(カーボン)に値段をつけ(プライシング)、二酸化炭素の排出量を抑制し、問題を解決しようというのである。

 二つ目の意義は、削減に伴う費用を最小化できるということ。単に排出を抑制するだけであれば、政府が企業活動を直接的に抑制することで、排出を削減できる。例えば、ずべての石炭火力発電を禁止する。もしくは、高炉での鉄鋼生産を禁止するなどすれば、排出を減らすことは可能だ。しかし、それらの規制をすぐに実行すると大きな経済影響、費用が発生。又、排出削減のための燃料や技術の導入にも費用が大となる。化石燃料からの排出を削減するにも、石炭から天然ガスに移行すると費用は高くなる。石炭火力発電からの排出を抑えるために、二酸化炭素の貯留回収技術を義務付けることなどにも費用発生する。工場で使っているボイラーを高性能の省エネ型のものに変更するにも費用がかかる。あるいは、家庭で利用しているエアコンを省エネ型に代えるにも追加の費用が必要だ。このように、二酸化炭素排出を削減するためには、多くの企業・人が費用を払わなければならない。

 カーボンプライシングが導入されると、企業も消費者も、カーボンプライシングを支払うのが得なのか、それとも排出削減を行なうほうが得なのか、知らず知らずのうちに考えるようになる。何故なら、商品やサービスの値段に炭素の費用が反映しているから。そして、結果的に、簡単に減らせるところから、つまり、費用の低い企業や家計から、排出削減が実施されるので、全体の費用が抑制されるのである。カーボンプライシングは、二酸化炭素の価格付け、つまり、市場メカニズムを使って排出削減していくので、そのための費用が抑制されるのである。

 このように、政府が脱炭素のために企業や消費者情報を収集して最小費用の規制を導入するより、市場メカニズムを使って企業や消費者が脱炭素に取り組むほうが、社会全体の費用が抑制される。これは、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ハイエクが、社会主義経済の実行可能性を政府の情報収集能力の限界から批判したのと同じである。

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