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2021年9月 7日 (火)

ESG投資が変える社会 ⑤

続き:

背景にある危機感

 民間の金融機関や機関投資家はなぜESG投資をするのか。EUなどの政策的誘導が始まる前からESG投資が広がってきた。

 勿論そこには経済的にごうりてきだから、つまり儲かるからと言う側面もある。言い換えればESG要因を考慮した方が投資のリスクとリターンを改善できる場合がある。たとえば気候変動は企業経営に物理的リスクと移行リスクをもたらす。物理的リスクとは気候変動による水害や不作等が実体経済にもたらすリスク、移行リスクとは脱炭素型の産業構造の転換に伴なうビジネスリスクだ。投融資の判断でそれらの要因を考えないという選択はあり得ない。例えば自動車会社に投資するときは、電気自動車への対応状況を見ない人はいないだろう。

 だが、ESG投資の動機はそれのみではない。背景にあるのは危機感ではないか。経済活動の基盤そのものが崩れかねないという危機感である。世界気象機関(WMO)の2021年の報告書に依れば、2020年の世界の平均気温は1900年の水準より1.2℃高かった。平均気温が上がれば極端な豪雨の規模と頻度が増加。既に世界は毎年のように豪雨水害に見舞われるようになった。それは社会的に深刻な被害であるだけでなく、交通が寸断され工場が止まるなど経済活動も大損害なのだ。

 生物多様性の喪失や経済格差の拡大も同様。極端な格差の拡大は人権問題と捉えるべきだが、同時に中間層が没落して需要が縮小し、少子化を加速させ、社会を不安定化させるなど、経済活動の基盤にも関わる。経済活動は安定した社会と自然環境の上に成立する。

 このことはGPIFのように資金量の大きい機関投資家にとっては直接的な意味を持つ。分散投資をする結果、殆ど全ての企業に投資することになるから。そのようにいわば経済全体に投資をするような投資家のことをユニバーサルオーナーと言う。彼らにとっては経済活動の基盤を守るために、環境や社会に対する負の外部性を考えて投資をすることは合理的選択。それは投資先企業からの直接的なリスクやリターンとは異なる。ESG投資のもう一つの論理と言える。

 だが、ユニバーサルオーナーといえども市場のマジョリティを占めるわけではないので、彼らが負の外部性を考慮するだけでは十分ではない。他の投資家も、同様の規範を受け入れる必要がある。それは投資家共通の利益となる。PRIがしてきたのは、そのような規範を市場に浸透させることだった。EUのSFDRにも同様の意味がある。

 この規範とは、資本概念の拡張である。従来、資本主義における「資本」とは貨幣資本のことを意味していた。経済活動の元手という意味。だが、貨幣資本だけで経済活動は成立しない。安定した社会や自然環境も経済活動を支える見えない資本なのだ。それは社会関係資本や自然資本と呼ばれる。

 貨幣資本は私有だが、社会関係資本や自然資本は社会が共有する社会共通資本なので、市場で取引されず、価格がつかない。そのためにこれまでは過剰に消費され、毀損されてきた。だが今後は、たとえ価格がつかなくても、社会関係資本や自然資本にも配慮して投融資の判断をすべきだ。負の外部性を考慮するとはそういうことだ。

 ESG投資の本質は、市場参加者にそのような行動規範を組み込むことにある。それは資本概念を拡張することで資本主義のあり方そのものを転換する試みとも言える。

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