8020 運動のその先へ
■講師 岡田 康男(日本歯科大学新潟生命歯学部教授 <病理学講座>)さんの文を載せる コピーペー:
1989(平成元)年に8020運動が始まり、歯科疾患実態調査によれば、80~84歳のヒトの現在歯数(残存歯数)は2005年8.87本、2011年12.17本、2016年15.32本と増加示し、2016年に8020達成者は50%を超えるまでになった。
一方、高齢者の現在歯数(残存歯数)の増加に伴い、歯根破折が歯の喪失原因になってきていることが考えられ、その可能性について報告してきた(日外傷歯誌10巻19~26p、11巻94~102p、12巻60~68p)。このような変化を迎えた今日、口腔機能の維持促進には、歯根破折の診断、治療、予防が重要な課題である。
そこで当教室では、日本外傷歯学会の『歯の外傷治療ガイドライン』に基づき、臨床にフィードバックすることを目的に垂直性歯根破折の病態について、破折根、周囲組織に加え歯根破折を伴う複根歯の非破折根の病理組織学的研究を行った。
対象は当教室に保管している最近の歯根破折組織のパラフィン包埋ブロック50例。性別では男性31例、女性19例、年齢は31~86歳で、男女ともに70歳代が最も多く(男性12例、女性10例)、平均年齢は67.8歳であった。歯群別では小臼歯が27例で最も多く54%を占めた。既処置としてブリッジの支台歯が14例(28%)で、根管充填は46例(92%)にみられた。病理組織学的に、歯根破折面にはGram陽性菌を主体とする細菌汚染物質が48例(96%)に、微小破折が25例(50%)にみられ、破折歯根周囲には歯根嚢胞が28例(56%)に、肉芽組織が14例(28%)に認められた。歯根破折を伴う複根歯の非破折根には根管を中心に放射状亀裂が3例に、歯根嚢胞が1例みられた。免疫染色では、Cathepsin K. RANKL, PTHrP, TGF-β 1の発現がみられ、歯槽骨吸収への関与が考えられた。
以上の結果でみられた歯根破折面の細菌汚染物質や微小破折の多さは、破折歯根を意図的抜去により口腔外で接着し、再植する際の破折面の処理を行う上で重要な所見であり、歯槽骨吸収はその処置を行う時期の判断に重要である。また、歯根破折を伴う複根歯の非破折根に根管を中心とした放射状亀裂がみられたことは、ヘミセクション時患者さんへの説明、術後の保存歯根の経過観察・メインテナンス、補綴治療および破折予防の上で重要な所見だ。これらを歯根破折の診療に活かすことにより、現在歯数(残存歯数)の維持・増加 延いては口腔機能の維持推進に役立つものと考える。
本研究は本学部倫理審査委員会の承認を得ておこなった。
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